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◇南京大学外国語学院創立百周年記念事業◇
~作文コンクールでエッセーが2等入賞(下)~
斎藤文男(元・南京大学日本語科専家)  ·   2017-11-13
タグ: 卒業生;大学;中日交流
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◇いまだ「自己形成」に到らず◇ 

大学を卒業して「自己の形成が意外と難しい」ことが分かった、というのはSYさん(男性)。≪学生時代はやりたいことをやって、出来たかどうかは別にして、「自己」という存在があったといえよう。今はその時と違ってそれが出来ていない。そもそも「自己」というものがまだこの身に形成されていないような感じが、ここ数年している。≫≪休暇の時、旅行に行くか行かないかよく迷う。「旅行は面白い→行きたい→だから行く」という思考過程も、何か問題があるように感じている。旅行ぐらいのことでも、自分のポリシーがこんなに動揺していた。まさに「自己形成ができていない」状態だ。≫ 

SYさんはこの時、30歳代前半で、妻と子供1人がいた。≪中国人男性の平均寿命が75歳ならば、人生の半分が過ぎ去ったことになる。それでも体の中に「一本貫いた筋」がまだ出来ていない。こう思う度にちょっと悲しい気持になる。≫40歳を迎えた時、「不惑」でいられるよう心配しながら期待している、と結んでいた。 

◇薄くなった家族のような絆◇ 

卒業して社会人となって気が付いたことを、後輩へのメッセージとして書いてきたものも多い。 

≪大学を出ていろいろな人と出会って、散々損をして初めて、初心を忘れず、自分を捨てるのは危ないと痛感した。これからの人生にもこの思いを常に考え、自分らしく生きていきたい。≫CNさん(女性) 

≪楽しいことを一緒に味わい、悲しいことを一緒に励まし合い乗り越えてきた。ルームメイトとは家族のような感情が生じた。卒業後はそれぞれの道に進み、あの時の絆が薄くなったように感じる。≫≪大学時代の私はあまりに自由で、その自由の大切さが分からなかった。しかし、すべてが悪いことではない。これら大学を卒業してから分ったことも、私たちにとっていつか貴重な経験になって、私たちを成長させるだろう。≫RGさん(女性) 

「卒業してから分ったことはいっぱいある」とCTさん(女性)は個条書きにしてきた。≪その一:人生に永遠なんてないから、今、傍にいる人を大切にするべき。親孝行は早めにした方がいい。その二:あの時の自分がいたから今の自分がいるのだ。どの段階の自分でも唯一なので、それらの自分を好きになること。その三:自分らしく生きる。嬉しい時は思い切り笑い、感激の時は大声で「ありがとう」を、苦しい時は堂々と泣こう。≫ 

南京大学創立110周年記念式典(2012.5.2) 

大学を卒業して「番外の作文」を綴ってくれた教え子たちは、今30歳前半から40歳前半に差し掛かっている。1980年代に人気となった「人到中年」という中国映画があったが、あの夫婦のような生活を送っているのだろうか。 

映画は眼科女医の妻と、金属研究所に勤務する夫が、2人の子供を育てる家庭と仕事の重荷を背負い、文化大革命を経験した知識階級の中年夫婦の辛さと愛情を克明に描いていた。卒業生たちのこれからの人生航路も、帆を一杯に広げて嵐や黒雲に負けず、力強く前進してほしい。 

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