◇危険を通じて警戒心学ぶ◇
数年前、市の政府機関に就職した学生が、翻訳した日本語を見てほしい、と依頼してきた。日本からの企業誘致をするための資料だった。「私の周囲には日本語を分かる人がだれもいません。私もこのような日本語にはとても自信がありません。」とかなり分厚い資料を送ってきた。
翻訳された日本語は直訳されたもので、日本の企業を誘致するための文章としてこなれていなかった。日本語を見ただけでは意味がすぐには分からない部分もあった。中国語の原文を見てやっと理解できた。大学で4年間日本語を学んだとしても、日本語の全般にわたってすべてが理解できたわけではない。大学ではごく基本的な事柄を学ぶだけだ。日本語の実社会の数%程度を理解したにすぎない。大学ですべてを教えることは不可能であり、教えたとしてもそれがすぐに役立ったり、身につくわけではない。自分にとって必要な多くのことは、実社会の体験から学ぶしかない。子スズメが危険な体験を通じて必要な警戒心を体得すると同じようなものだろう。
◇地味でおしゃれなコジュケイ似◇
スズメの親子から数日遅れて、地味でおしゃれなコジュケイ似の親子がやってきた。親子ともスズメよりかなり大きな鳥だが、幼鳥はやはり自分でエサを食べようとせず、ポカンとしてエサ台にいるだけだ。親がパンきれをくわえると大きな口を一杯に開けて待っている。スズメのヒナは巣立ってから数日たっているようだったが、こちらは巣立って1、2日程度なのかもしれない。親が何回も口移しにエサを幼鳥に運んでいた。
「一杯食べて大きくなって、早く自分で食べられるようになるんだよ。」
「うん、分かっているよ」
そんな会話をしているような様子だった。
幼鳥が大きく口を開けて、親からもらったパンきれを次々に飲み込んでいく姿は、学生が教室で学んだ新しい知識をどんどん吸収していくように思えた。
「そうだ。たくさん食べて、たくさん覚えて、早く一人前になるんだよ。」
思わず学生を励ますような気になって幼鳥を見ながらシャッター切った。
◇待ち遠しいカササギの訪問◇
サンクチュアリを作った直後につがいで来たカササギは、その後ぱったりご無沙汰になった。子育てにいそがしかったのだろう。ここ数日、遠くで「カチカチ カチカチ」という独特の鳴き声が聞こえた。まもなく子供を連れて窓辺にやってくるだろう。
「先生、お久しぶりです。その節は大変お世話になりました。」
卒業して数年後、市内のレストランであったビジネスマン風の中国人から日本語で声を掛けられた。一瞬だれだか思い出せなかった。
「南京大学を卒業した○○ですよ。」と言われ、にっこり笑った顔が学生時代に戻った。「やあ、随分久しぶりだねえ。」学生時代、作文の日本語力はそれほどではなかったが、今は、日本語の会話力、応対の態度、振る舞いなどすっかり日中間で活躍するビジネスマンになっていた。
春に来ていたカササギも、こんな風にりっぱに成長してやってくるのだろう。カササギ親子の再訪がとても待ち遠しくなった。(写真はすべて筆者写す)
「北京週報日本語版」2011年7月11日
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