◇自立を促すスズメの親心◇
スズメの親子が初めて窓辺にやって来たのは、学部生の期末試験が終わった6月下旬だった。子スズメは必死に羽を小刻みに震わせ、口を大きく開けてエサをねだる。親スズメは口移しにいったんエサを与えてから、「あとは自分でこうやってついばんで食べるんだよ」と見本を見せるようにしながら、自分で食べて子スズメにはかまわなかった。それでも子スズメは「チッチッチッ」と鳴きながらエサをねだっている。親はかまわず飛び去ったが、子スズメはエサ台の中で所在なさそうにしていた。やがて仕方なく自分で食べ始めた。大きなパンきれを口一杯にくわえて、なかなか飲み込めず苦労していた。何回か食べているうちに、小さいものを回数多く食べることに気がついたようだ。しかし、周囲への警戒心は、親スズメや他の仲間ほどはなかった。天敵の鳥類がきたらわけもなく捕まえられてしまうだろう。食べることだけでなく、警戒心が常に必要なことは、これからさまざまな危険に遭って体得していくのだろう。
「はい、口を大きく開けて」「あ~ん」親から口移しに食べさせてもらう
親がいつまでも子供の世話をしていたのでは、独立しないから、「自分でやんなさい」と、親スズメは子供に自立を促すようにさっさと飛び去って行った。子スズメは独立して自分でエサを食べられるようになる1、2週間後には、親スズメのテリトリーから追い払われる運命にある。親子がずっと一緒にいたのでは、周囲のエサには限りがあり共倒れになってしまう。私だっていつまでも窓辺のサンクチュアリの食糧を補給し続けることはできない。大学との契約が切れればここを去らなければならない。やはり子スズメには新しく自分のテリトリーを確保して自力でエサを見つけてほしい。卒業していった学生たちも、これから実社会でいろいろな体験をしながら、社会人として自立していかなければならないのは子スズメと同じ立場にある。
「いっぱい食べて速く大きくなるんだよ」「うん、わかったよ」
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