しかし、世界各地の複雑な情勢からしてみれば、米国の「アジア太平洋リバランス」戦略調整は多くの要素に妨げられることは決定的で、意図通りに運ぶことはあり得ない。
まず、米国は国内に非常に多くの問題を抱えている。主には、経済回復に時間と労力がかかっている、二大政党の政争が日増しに激化しているといった問題だ。オバマ政権になってからすでに相対的な内向き志向の時期に入っており、対外的にはソフトパワーとハードパワーの結合を強調し、「スマート外交」を展開している。
次に、米国は欧州で対ロシア戦略の矛盾に陥っている。ロシアを従来からの競争相手と見なす惰性的思考から脱却できずにいる米国は、NATOのリーダーとしての義務を引き続き果たさねばならず、プーチン指導下の強国復興意識と民族主義の色合いが日増しに鮮明になるロシアの制裁にかなりの精力を費やさざるを得ない。
第3に、オバマ政権がイラン核問題を処理し、米国とイランの対立を緩和する外交努力が大きな進展を遂げたにもかかわらず、米国は中東でこれまでになく複雑な局面に直面している。早急に処理を要する問題には、突出するイスラム過激派「イスラム国」(IS)問題、長期化するシリア問題、イランが戦略的に一息ついたことで生じる地政学的影響、「アラブの春」以降旧秩序が崩壊し新秩序が確立できない一部中東国家の苦境、中東内部の宗派対立、イスラエルの安全保障への配慮などがある。こうしたことのすべてが、米国が外交・軍事安全保障面で多くの精力を中東に注がざるを得ないことを決定づけている。