外資系マンションの管理会社で働く上原靖子さんも、身近な暮らしの中で低炭素生活を実践している。毎朝洗顔をする時に洗面器に水をためておき、トイレで流す水として使っているのだ。また、シャワールームにも大きめの洗面器を置いておき、シャワーを浴びた時や足浴をした後のお湯をためてトイレで使っているという。
左:流し台に置かれた洗面器。この水をトイレに流して使う。
右:上原靖子さん。水をためて洗顔する習慣がすっかり身についた様子だ。
上原さんがこの習慣を始めたのは2~3年前のことだ。それまでの上原さんは、水道を流しっぱなしにして洗顔フォームの泡を立てたり、歯を磨いたりしていた。これを見た中国人の友人から「もったいない。それをトイレに流したら両方に使えるのに」と言われたのがきっかけだ。北京は水不足だと聞いていたことも理由の一つだった。
この習慣を始めてから、一度水をこまめに止めるのを忘れて流しっぱなしにしたまま顔を洗ったことがある。その際、洗面器に思いのほかたくさんの水がたまっているのを見て、驚いた。洗面器に水をためておくと、自分がどれだけ水をたくさん使っているのかが一目で分かり、「もったいないことしてたんだ、私」と改めて気づかされたという。
上原さん自身は、低炭素生活を実践しているといった高尚さや気負いとは無縁だ。「低炭素生活を送っているという自覚はなくて、単に水がもったいないから」と、実に自然体。逆に、環境に配慮した生活を送ることについては、「いいことをしていることに違いはないけど、自分だけがやっているのは気恥ずかしい」という感覚があったという。でも、「エコだとかっこつけている感じだけど、節約ならしっくりくる」というように、大義名分をかざしてエコロジストを気取るのには抵抗感があっても、節約を心がけることならすんなり受け入れられた。「もったいない」という友人の一言がきっかけになって、低炭素生活のハードルが低くなったともいえるだろう。「たぶん最初に始めるのが大変。一回やってしまうと、これもあれもできると思うようになる」と語るその顔に、地に足のついた低炭素生活を実践している人のすがすがしい自信がにじんだ。
今回の取材では、阿部さんと上原さんに同時に話を聞いた。それぞれ自分なりの低炭素生活を心がけてきた二人だったが、「上原さんの節水術、すごいですね。私も見習わなければ」(阿部さん)、「気に入ったお箸で食事できるほうが楽しいし安心できるかもしれない」(上原さん)と、互いに啓発されるところも大きかったようだった。低炭素生活は、エコ家電購入、関連セミナーへの参加、植樹活動、廃品回収、ゴミ拾いなどのほかにも、一人一人がすぐできる小さな事からまず始めること、そしてそれを続けていくことが大事だと気づかされた。そして、その一人一人の行動がやがて多くの人の行動へとつながっていく。「これからは、阿部さんも一緒にやっていると思える」という上原さんの言葉が、何よりもそれを象徴していた。
「北京週報日本語版」2010年3月10日 |