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元駐日特派員林国本さんの眼  
北京オリンピック以後の中国スポーツ界

北京オリンピックは成功裏に幕を閉じ、パラリンピックを含めて中国にかなり多くの資産を残してくれた。精神的な資産はおカネでは計算できないほどのものがあったと言えよう。物質面から見ても、大衆的なリクリエーション施設、観光スポットに切り換えることを建設当初からちゃんと計算していたものは、じわりじわりとその効果を現わしつつある。「水立方」といわれるデラックスな水泳施設は今や噴水もアレンジできる、大コンサートホールに変身をとげている。

さらには、五十数個に達する金メダル、これは全国民の健康意識、スポーツ観をさらにグレードアップする面で、ソフトパワーと化する可能性をもった成果と言っても過言ではない。

また、ボランティアの熱心な働きぶりは、中国の若者の国際意識の大幅な向上という面ですばらしい実践であった。ボランティアとして頑張った体験をもつ若者たちと話し合ってみても、今だに興奮さめやらぬものがあるのを感じる。人間が精神的に成長するためには、「感動体験」が必要だ、というのをいろいろな書籍で目にしたことがあるが、それはまさにこういうことを指しているのである。

もちろん、こういうスポーツの祭典を主催することは中国にとっては初体験。いろいろ手さぐりで努力を重ねたことに違いない。

職業柄、外国の新聞、雑誌に毎日目を通しているが、ほとんどの評価は上々であるが、しかし、一部の新聞はやはり「一種の習性」になっているかのように、「口パク」とかいったことをくりかえし取り上げていた。筆者は数十年、国際ジャーナリズムの世界で暮らしてきたが、その中で考えぬいてきたことは、外国のメディアというものはそういうもので、この習性は全治不可能であり、また、それをわざわざ改めてもらう必要もない。また、そういうことをしてくれる人間がいる方が、中国がよりよく事を運ぶための触媒となるかも知れないからだ。また、そういうことを書かないと「偏向」というラベルを張られて「窓際族」になってしまうかもしれない。「社是」と某外国の国益から乖離したことを書いて退職させられた外国の著名な評論家を筆者は知っている。

したがって、世紀のビッグイベントであるからにはいろいろ違った見方を参考にする度量も必要だろう。

では、これからの中国スポーツ界のあり方は、という話になると、筆者の私見では大衆スポーツのさらなる発展、一般市民のスポーツ熱のさらなる盛り上がりに力を入れるとともに、やはり競技スポーツのレベル・アップに力を入れつづけることを主張したいし、中国は外貨保有高の乏しい数十年前から国外の進んだスポーツ技能を導入する面で努力してきた。世界的な経済危機のさなかにあっても、なおヨーロッパに買付団を公約どおり送りこんでいる昨今である。改革・開放でかなりの基盤ができた今日、競技スポーツにさらに力を入れ、遅れている種目を強化し、スポーツ大国からスポーツ強国へ変身をとげるべきだと思う。

今回のオリンピックで筆者が感動したのは水上種目のレベルが格段に向上したことだ。長い歴史の蓄積のあるヨーロッパ勢などと堂々と渡り合っているシーンを目にして、筆者はそのために「縁の下の力持ち」の役割を果たしたコーチ陣に脱帽したい気持になった。

もちろん、社会の進歩、発展でいろいろ以前直面することのなかった新しい状況が見られることもたしかだ。例えば、若者たちはいろいろな未来発展の可能性が以前よりはるかに多くなったこともひとつだ。さらに中国では一人っ子政策を実施しているという現実もある。子供の将来を体操とか、カーリングとかいうひとつの可能性に限定してしまうことはどうか、という考え方もないわけではない。そして、1つの種目で世界のトップクラスに入るためには、それこそ全身全霊をかけてのトレーニングが必要である。それは即ち、その他の可能性を切り捨てることになりかねない。

私事でまことに恐縮であるが、私の子供もかつては少年スポーツ学校に入っていたが、「親バカ」の典型かもしれないが、コーチその他の人たちにたいへん申し訳ないが、途中でやめさせて、ドイツ語の少年クラスに入れ、日本で言えば独協大のようなエスカレーターにのせ、その後ドイツに留学させた。おかげでその後スーイ、スーイと行っている、つまりこういうケースもある訳だ。私がここで言わんとしているのは、スポーツの世界で世界一に登りつめることができなかった場合、あるいはケガなどで引退せざるえなくなった場合のリスクにどう対処するかということである。

選手生活にピリオドを打ってからの人生はどうなるのか。現実としては、そういうケースに直面した人たちのほとんどは、ちゃんとした次の人生を歩んでいることもたしかだが、アメリカ、イギリス、オーストラリア、日本に自由に留学できる時代なのである。可能性の選択の幅は筆者の若い頃に比べると、何倍も広くなっている昨今である。選択する側も、受け入れる側も、さらに大所高所に立って、時代を先取りすべきところにきているのではないだろうか。これは「人間本位」、「和諧社会」、「科学的発展観」にもつながることになることは疑いない。中国スポーツ主管部門のトップがマスコミに発表した談話を見ても分かるように、スポーツ強国に向かうと同時に引退する選手、ケガで去る人たちに対するさらなる配慮も明らかにされている。もう一度オリンピックを主催するときには、今よりもっと理想的な境地に達していることだろう。中国人はアヘン戦争以後、「アジアの病人」といわれつづけてきたのだ。筆者としてはスポーツ強国になることを願っている。

「北京週報日本語版」 2009年3月11日

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