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元駐日特派員林国本さんの眼  
北京第二外語での全国外国語学習者との対話と感想

                               林国本

既に一文をしたためが、もう少し話を掘り下げてみたいと思ったので、これを「第二弾」にさせてもらうことにした。

北京第二外国語学院と中国翻訳協会主催の「伝承と革新」というテーマの同時通訳と翻訳教学国際シンポジウムと第一回全国大学通訳・同時通訳コンテストが11月7日から11月9日までおこなわれ、筆者も対話のパネリストとコンテストの評議員という役目を果たすことになった。

外国のことわざに、「すべての道はローマに通じる」というものがあるが、同時通訳という職業が若者たちにとって、ナウイ職業となっている今日、「すべての道は、同時通訳に通じる」と言って若者たちを励ましたいと思う。一部の若者たちの間で、どうして、二つの言葉を瞬時に通訳する、軽業や手品のようなことが可能なのかと不思議がる人もいるが、筆者に言わせれば自分の特色を生かし、二つあるいは三つの言葉のレベルを極限に近いところまで高め、一定の訓練を積めば、ほとんどの人にとってはまったく可能なことだと確信している。ただ、ふだんから控え目な性格で、早口で話をする習慣のない人にとっては、人一倍の努力が必要であることも確かだ。

筆者はたまたま、日本語を主とする稀少価値的なジャーナリズムの世界で数十年暮らしてきたので、自然にコンテンツ、モジュールという型が身についていたので、余技としてすっとこの世界に入ることができ、まるで著名な数学者ピーター・フランクルさんのジャグリングという大道芸のように楽しんできた。そしてほとんど10数年間事前の準備もせずに大会場で楽しんできた。しかし、この世界もニーズの変化に伴って、事前の準備をちゃんとしなくては、「人材派遣会社」に失礼であるし、とくに、お客様に申し訳ない、と思うようになった。そこで自分のスキルへの投資とみなしてかなり準備をしてきた。真剣勝負の舞台に出るからには宮本武蔵にならなければならない。佐々木小次郎になっては困る訳だ。

いわゆる同時通訳という筆者にとっては余技の世界で、筆者も内心ヒャッとしたことが何回かある。一回は高分子化学と関連のある仕事を軽率にも引き受けてしまったことだ。筆者のこれまでの人生でこれほどあわてたことはなかった。下手をすれば何百人の前で赤恥をかくことだった。さいわい、筆者は英語も少しはかじっているので、本屋に飛び込んで、仏にすがる気持ちで高分子化学の書架の前に立ち、英漢高分子化学辞典、英漢ゴム辞典などを三冊買って、それこそ一夜漬けの勉強をし、なんとかこの波に呑み込まれずに済み、「人材派遣会社」からも一応高く評価されたが、それ以後、こんな危ないツナ渡りは絶対に避けることにしている。今でもこの三冊の辞典は教訓として本棚にちゃんと置いてある。ふだん、リップサービスの中でやはり口先では謙虚であることを装っても、内心は天狗になっていたのであろう。こういう失敗談になりかけた話を若い学生たちにするのは、同時通訳の世界はそれほど甘くないということを知ってもらいたいからだ。

筆者も年齢と健康維持を考えて、オリンピックのメダリストがコーチの道に切り換えているように、また一歩、一歩本業のジャーナリズムの世界にU―ターンしつつあるが、中国の国際的地位の向上で、同時通訳の仕事はますますニーズが増えている。言語学や日本文学、日本文化という研究分野に進む人も大勢いるが、同時通訳の世界に夢を抱く人も増えてこよう。今では、日本語と英語の同時通訳ができる人もごく少数だが出てきている。

基礎をしっかり固め、健康に気をつけてこの世界にチャレンジすることもたいへんすばらしいことだ。今回の「二外」での対話で筆者たちの失敗談を含めての対話に耳を傾けている若者たちの目の輝きを見て、筆者はずっと心の中でエールを送っていた。ただし、同時通訳という仕事はほとんどがフリーランサーの世界である。フリーであることはすべてが自己責任ということでもある。さいきんのサブプライム問題の波紋で各国では生命保険会社の破綻、年金のようなセーフティーネットの破綻ということがマスコミで取り上げられている。筆者は子供の頃からゼンソク体質だったので、フリーランサーの道を歩むことは絶対に避けてきた。セーフティーネットを構築してから同時通訳を趣味として楽しんできた。しかし、人間にとってはフロンティア・スピリットも必要であることもよく知っている。ボイーズ(アンド・ガールズ)・ビ・アンビシャスろ言いたい。若者たちよ、頑張れ。

さらに、つけ加えておきたいのは、日本語の言語学、日本文学を研究する人材も不可欠であり、ブームやフィーバーに浮かれて同時通訳の世界に走るよりも、地味に見えるが、じっくりこういう世界で研究をつづけることも、すばらしいことだということも忘れないでほしい。

「北京週報日本語版」2008年11月21日

 

 

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