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北京週報>>特集>>斎藤文男氏のブログ  
◇杜甫はどんな蝶を見たのか◇

 

◇対句からずれている頸聯◇

宇野直人氏の5句目の日本語訳は次のようになっている。

「見れば花の蜜を吸うあげはちょうが向こうの花園の奥深くに見え」と、「蛺蝶」を「あげはちょう」としている。他の多くの訳もこの部分は「あげはちょう」である。しかし、単に「あげはちょう」というとナミアゲハの別名か、アゲハチョウ科の総称で、「アゲハチョウ」の現代の中国語は「鳳蝶」である。

現在の中国語で「朱蛺蝶」と表記されるヒオドシチョウ(中国・陝西科学技術出版社の「世界胡蝶分類名録」から)

「蜻蜓」は一般にトンボ全体を指す総称だ。前句で「あげはちょう」と言っているのだったら、後句でもオニヤンマとか赤トンボなどと具体的にすればすっきりとした対句になる。

杜甫は、李白の「詩仙」に対して「詩聖」と言われた盛唐の大詩人である。絶句の李白に対して、杜甫は律詩を得意とし、「緻密な観察や構成力を、漢詩の中でも最も厳格な規律をもつ<律詩>に託した」(NHK古典講座「漢詩」杜甫:宇野直人)という。

緻密な観察や構成力があるのならば、後句の「蜻蜓」に対して前句は蝶類全体の総称である「胡蝶」とした方が、対句として的確な表現だと思う。あえて「蛺蝶」としたのはどのような理由なのだろうか。「中日辞典」第2版(小学館)によると、「蛺蝶」は「ヒオドシチョウ」とタテハチョウ科の種類の名称になっている。前句で固有の種類名を挙げ、後句ではトンボ全体の総称では、“緻密な観察や構成力”の対句から少しずれてしまうのではないか。

ヒオドシチョウは、日本語の漢字では「緋縅蝶」(広辞苑、大辞林)と表記されるが、現在の中国名は「朱蛺蝶」=朱色のタテハチョウ科の蝶の意(「世界胡蝶分類名録」陝西科学技術出版2006年)となっている。中国語の「蛺蝶」は現在、「タテハチョウ科」の意味で使われており、固有の種の名称ではない。

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