１９９３年、黄氏はシンガポール国立大学化学学部でポストドクター課程を修了し、その後は科学研究に従事した。新たな環境の下で、彼は有機電子が世界の最先端にあり、巨大な発展潜在力を持っていることに気づく。鋭敏な判断力によって、彼は比較的なじみがあり、すでに蓄積もあったナノ素材分野をためらいなく放棄し、有機電子の研究に身を投じた。そして徐々に、活力にあふれ、国際的に比較的大きな影響力を持つチームを築いていった。 

「シンガポールは７１８平方キロメートルしかない都市国家だが、そのグローバル意識は非常に突出している。シンガポールでの１４年間は、まさにシンガポールが世界の科学技術と高等教育の舞台で際立った役割を演じ、飛躍的進歩を遂げた十数年に当たる。それは私に夢を与えてくれただけでなく、一生得るところのあるマネジメントという視点を与えてくれた」。黄氏は本誌にこう語った。

科学技術従事者としての「祖国への思い」 

２００１年、チームの科学研究事業が伸び盛りだった時、黄氏は周囲の人にとって思いがけない決意をする。チームを率いて帰国したのだ。 

当時、中国と先進国では科学研究面の条件格差が大きく、留学帰国者に対する支援政策は相対的に言って手厚いものではなく、ハイテク従事者の収入や待遇水準は先進国と非常にかけ離れていた。それにも関わらず黄氏が帰国を選んだのは、つまるところ国が急速に発展する状況を見て大いに奮い立ったからだった。「最も強く印象に残ったのは、２００１年に国務院僑務弁公室の招待で、妻とともに華僑代表として国慶節（中華人民共和国建国記念日）のレセプションに参加したことだ。その時の経験と普段から注目していた国内状況に突き動かされたところが大きかった」。黄氏はこう振り返る。 

黄氏によると、帰国を選んだのは、中国の知識人が一貫して持っている祖国への思いと愛国主義の伝統によるものでもあるし、「中国の夢」に突き動かされたからでもあった。中華民族の偉大なる復興の実現という「中国の夢」は民族の夢であり、中国人一人一人の夢だ。そして黄氏の「中国の夢」とは、「科学技術教育による強国」であった。 

さらに彼を喜ばせたのは、帰国してチームを作り、科学技術革新の場を築く過程で、政府も絶えず様々な政策で海外のハイエンド人材の帰国と起業を奨励したことだ。海外のハイエンド人材にとって、帰国して活躍の場を中国に移すことの大きな優位性は、発展スピード、発展余地、発展チャンスにあった。