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『無錫旅情』の舞台、今は中国有数の桜の名所に
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本誌記者 勝又あや子 · 2017-03-31 · ソース: |
タグ: 桜;無錫市;中日交流 | 印刷 |
日本では全国各地から桜の開花のニュースが続々と伝えられ、いよいよ本格的な花見シーズンを迎える。今年は中国から多くの花見客が日本を訪れることも話題だ。その中国にも実は桜の名所がいくつかある。その1つが、昭和の大ヒット曲『無錫旅情』に歌われた無錫市にある鼋頭渚(げんとうしょ)公園だ。この中国屈指の桜の名所には、実は日本人が深く関わっている。
『無錫旅情』に込められた中日友好の願い
無錫市は江蘇省南部に位置し、上海市からは高速鉄道で40分ほどの距離にある。琵琶湖の3倍の広さを持つ太湖のほとりに位置し、古くから風光明媚な景勝地として知られる。人口は約650万人、2016年の1人当たりGDPは14万元余りと、経済的にも著しい発展を遂げている。対外開放にも積極的で、早くから外資企業を誘致し、ソニー、シャープ、パナソニックなど日本からも多くの企業が進出。現在約280社の日商倶楽部参加企業があり、約1700人の在留邦人が暮らす。
日本企業進出のきっかけとなったのは、1986年に発売され、翌年にかけて大ヒットした『無錫旅情』だ。無錫の名所を歌詞に織り込んだこの曲は、当時レコード130万枚を売り上げ、1987年には第29回日本レコード大賞を受賞した。この曲で、無錫というそれまでなじみのなかった中国の都市の名前が日本人の脳裏に深く刻まれ、その後の日本企業進出ブームにつながったという。
実は、この曲は中国側からの働きかけで生まれた。「当時の旅遊局局長の馮恵群さんから、『無錫を訪れてほしい、日本で無錫の曲を作ってほしい』という依頼が来たんです」。そう明かすのは、『無錫旅情』の歌い手である尾形大作さんだ。尾形さんによると、この曲の歌詞には中国と日本の関係が織り込まれているという。それが「も一度出直そう」「今度は君を離しはしない」という部分だ。「中国と日本は近くて遠い国のような存在だったけれど、やっぱり仲良くできるものだったら仲良くしたいという思いが、制作サイドにもあったようです」。一見すると男女の仲を歌ったように見える歌詞には、中日友好への願いが込められていたのだ。
その歌詞に導かれるように、尾形大作さん自身も中日友好の道を歩むことになった。同曲のヒットを受け、尾形さんは1988年に無錫市の名誉市民になり、これまで訪中は10数回を数える。2012年には無錫市旅遊局無錫旅遊宣伝顧問に就任、2015年からは「無錫市人民政府新区管理委員会宣伝顧問」も務め、無錫と日本をつなぐ架け橋となっている。
日本人が植え、中国人が守り続ける桜林
無錫市で桜の名所として親しまれているのは、太湖のほとりにある鼋頭渚公園だ。鼋というのはスッポンのことで、太湖に向かってスッポンの頭のようにせり出した半島に位置している。この公園には100種類、3万本余りの桜が植えられ、毎年3月下旬から4月にかけて行われる桜祭り「無錫国際花見ウィーク」期間中には、1日平均延べ1万人以上の人出があるという。開幕はちょうどソメイヨシノの開花時期に当たっており、日本人にもなじみ深い、淡いピンクの桜がたなびく春霞のように咲く風景が楽しめる。
実は、この公園に植えられている桜の多くは日本人によって植樹されたものだ。その始まりは今から30年前。1986年に坂本敬四郎氏と長谷川清巳氏が桜の苗木を無錫市へ贈呈したいと申し出たことがきっかけとなり、翌1987年、長谷川氏らが発足させた市民グループ「日本桜友誼林建設全国実行委員会」と無錫市人民対外友好協会が協力関係を結び、「中日桜友誼林」建設が始まった。以来30年間、桜の植樹活動が続けられている。
活動提案者の一人である長谷川氏は、過去に中国に配属された経験を持つ戦争体験者だ。「日本友誼林建設全国実行委員会」の流れをくむ「日中共同建設桜友誼林保存協会」の新発田豊会長は、「長谷川がこの活動を提案したのは、戦争のない状態を永遠に続けていきたいという思いからです」と話す。30年の間には反日感情もあったが、植樹活動は途切れることなく続いてきた。
桜を植えたのは日本人だが、桜を守ってきたのは中国側の関係者だ。無錫市、人民対外友好協会はともに中日桜友誼林に大いに注目し、積極的に桜友誼林の建設と維持に取り組んできた。2014年からは、無錫市人民対外友好協会が無錫市文化旅遊発展グループなどと協力し、「無錫国際花見ウィーク」を開催して広くアピールするようになった。今では、桜の植樹活動だけでなく、日本語スピーチコンテスト、中日音楽ワークショップ、華道や茶道、食文化の紹介など、中日双方の文化、観光、経済も含む総合的な交流イベントへと成長している。
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