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中国で感じる美意識の変遷
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本誌記者・植野友和 · 2022-05-27 · ソース:北京週報 |
タグ: 美意識;文化;中日交流 | 印刷 |
かつて日本で働いていた頃、懇意にしていた中国系企業の代表から手土産をいただくことがしばしばあった。その方は日本生活が長いせいか、手渡す時に「つまらないものですが」といった言葉を添えてくるのだが、実際にはつまらないものどころかいかにも高そうな箱に入っていて、受け取っていいものかどうか、いつも不安になったものだ。もっとも箱を開けてみると、入れ物が豪華な割に、中身はささやかな品物が入っているだけ。「なぜ月餅を6個贈るのに、こんなにもド派手な梱包が必要なのか」と当時は不思議に思ったが、中国では珍しくないことであると後に知り、今では気にならなくなった。
「派手で大きいものほど好まれる。商品の色は赤や金を多めに使っておけば間違いない」。これは長年中国ビジネスに携わる先輩が、かつて自分に言った言葉だ。確かに、中国では「目立ってナンボ」という意識が強い上、あらゆる事象がダイナミックさを備えている。全面が電飾で覆われた高層ビル群、新年を盛大に祝う花火、空港や博物館、モニュメントといった驚くべき巨大建築物……いずれも日本人の感覚からすると過剰とすら思えるスケールの大きさだが、そこに中国ならではの魅力があるのもまた事実。また、果てしなく広い国土に暮らす中国の人々の好みがわれわれ島国日本と異なるのはある意味当然であり、どちらの審美眼が素晴らしいかという話でもない。
ところが近年、筆者はそのような「重厚長大」を良しとする中国の傾向に明らかな変化を感じている。もっと言えば、人々の美意識が磨かれ、多様化しているのである。それを最も象徴するのが、今年行われた北京冬季オリンピックの開会式だ。一輪の花を生けるかのように灯された聖火は、「大きいことはいいことだ」といった感覚とは無縁の演出であり、世界に通用する普遍的な美しさを持つものだった。また、中国では最近、さまざまなアートスポットで売られている「文创产品」、すなわち文化クリエイティブ製品が人気を集めているが、それらの多くは精緻な美的センスに満ちている。「神は細部に宿る」という言葉の通り、アクセサリーやオブジェなど、ちょっとした小物のデザインに中華文化の美が凝縮されているのである。
自分が感じる中国の美的感覚の変化は他にもある。まず、キャラクターデザインについて言えば、かつての中国産「萌えキャラ」「ゆるキャラ」は総じてダサかわいいといった印象だったが、今では他国に見劣りしなくなった。直近で話題になった冬季五輪の氷墩墩(ビン・ドゥンドゥン)と雪容融(シュエ・ロンロン)以外にも、百貨店で売られている中国国産のキャラクター商品やローカル企業のマスコットキャラなどから、「卡哇伊(かわいい)」が感じられるのだ。
さらに、人々のファッションセンスが大きく変わった。10年前、初めて中国を訪れた際には「なぜその色で髪を染めようと思ったのか」と思わざるを得ない人や、大阪のおばちゃんも顔負けのド派手ファッションで町を闊歩する方によく出会ったものだ。広東省を旅行していた際に「杀马特」と呼ばれる珍妙なファッションの若者を見かけ、思わず足早に立ち去ってしまったこともある。しかし現在、北京や上海などの大都市で見かける若者の着こなしは、実に洗練されている。同僚の女の子に言わせると、やはり日本とはセンスが大きく違うそうだが、少なくとも中年男である自分には区別がつかないほどだ。
では、なぜこのような美意識の変化が起きたのか。これは推測でしかないが、中国が世界各国と盛んに人的・文化的交流を行い、海外に向けて大きく門戸を開いていることが大きいのではあるまいか。日本では一般的に、中国のことを一種の閉じられた世界と捉える向きがある。実際には全く逆で、とりわけ文化面において中国の人々は海外のものを積極的に取り入れようとする意識が強く、同時に自分たちの文化を世界に発信する力を持っている。互いに良い面を学び合う中で、中国の美的センスは独自の良さを保ちつつ、世界各国の人々の審美眼にかなうものへと進化していく。つまるところ中国における美意識の変遷は、この国が世界と密接につながっており、グローバル化を推し進めている証しと言えるのかもしれない。発展のスピードが早い中国で、10年後、20年後にどのような流行が生まれ、人々の美的センスがいかなる変化を遂げているか。経済やテクノロジーなどに注目が集まりがちな中国だが、ぜひ日本の皆さまにおかれては、この国の豊かな文化とその進化にも注目していただきたいと思う次第である。
「北京週報日本語版」2022年5月27日
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