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空を飛ぶ鳥・村上春樹 軽いマテリアルを小説の題材に
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· 2016-12-15 · ソース: |
タグ: 村上春樹;小説;中日交流 | 印刷 |
村上春樹のような作家はこの先、なかなか登場しないだろう。彼の作品は50以上の言語に翻訳され、作品を出すたびにベストセラーとなっている。また、ノーベル文学賞の発表の時期が近付くと、毎年のようにブックメーカーのオッズで人気上位になる。約40年の作家人生の中で、彼はどのように小説を書いてきたのだろう?村上春樹が6年かけて完成させた自伝的エッセイ「職業としての小説家」の中国版がこのほど、中国の大手編集プロダクション・新経典文化から刊行された。このエッセイの中で率直な村上春樹は、「僕らが若かったときよりも更に『書くべきこと』が少なくなっているかもしれない」、「戦争の混乱や飢えを経験していないため、これを書きたいという実のある材料がない」と戸惑いを語っている。(文:許暘。文匯報掲載 )
しかし、彼は、「材料そのものの質はそれほど大事ではない。 平易な言葉しか使わなくても、もしそこに『マジック』があれば、僕らはそういうものから驚くばかりに洗練された装置を作りあげることができる」とし、「小さな経験からだって、やりようによってはびっくりするほどの力を引き出すことができる」、「とにかくありあわせのもので、かんばれるだけがんばってみるしかない。それができたなら、大きな可能性を手にしたことになる」とポジティブに書いている。著名な評論家・李敬沢氏は以前、村上春樹の軽いマテリアルを「空を飛ぶ鳥」と描写。「村上春樹の描く物語はグローバル化が進む時代における孤独を描写し、そのタッチは『薄味』好みの人にマッチしている。彼は、ハードでスケールの大きな描写ではなく、得意の想像力で、人の揺れ動く、言葉にはできない感情を表現している。さらに、その数々の隠喩や言葉遣いで、都市に流れる孤独なムードを的確に表している」と指摘した。
鍵盤が88しかないピアノで新しいものができないことはない
村上春樹も、多くの作家と同じく、「経験やマテリアルが少ない」という課題に直面しているようだが、どのように小説を書いているのだろう?同エッセイで、彼は「僕は親の世代のように戦争を体験していないし、ひとつ上の世代の人たちのように戦後の混乱や飢えも経験していない。比較的穏やかな郊外住宅地の、普通の勤め人の家庭で育ち、とくに不満も不足もなかった。戦争とか革命とか飢えとか、そういう重い問題を扱わない(扱えない)となると、必然的により軽いマテリアルを扱うことになるし、そのためには軽量ではあっても俊敏で機動力のあるヴィークルがどうしても必要になる」と率直に述べ、さらに「書くべきものを持ち合わせていない」というのは、言い換えれば「何だって自由に書ける」ということで、とにかくひっかき集めて、あとはがんばって、マジックを働かせれば、洗練されたものが作れると書いている。
村上春樹の処女作 「風の歌を聴け」を例にすると、「何も書くことがない」ということを逆に武器にしているため、そのストーリーはシンプルで、若い男女の出会いと別れを描いているものの、人間性のぼんやりとした微妙な部分を存分に引き出し、読者の共感を呼んだ。村上春樹は、「新しい世代には新しい世代固有の小説的マテリアルがあるし、そのマテリアルの形状や重さから逆算して、それを運ぶヴィークルの形状や機能が設定されていく」と独特の感性で述べ、音楽を例にして、「『鍵盤が88しかないんだから、ピアノではもう新しいことなんてできないよ』ということにはならない」としている。
また、「最初から重いマテリアルを手にして出発した作家たちは、ある時点で『重さ負け』をしてしまう傾向がある」と冗談交じりに語っている。年を重ねるにつれ、経験が作家に与える活力は衰えていくもので、マテリアルの量に頼らず、自分の心で感じていることに端を発している作家のほうが気楽なのかもしれない。
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