中国経済は今、転換の岐路に立っている。中国政府の最も効果的な任務は、市場経済化のレベルを高める環境整備やインフラ整備であろう。市場原理によって企業が淘汰されたり、健全な競争により国内に優れた商品やサービスが出現するようにすれば、中国経済は確実に転換してはずである。日本が1970年代に産業転換に成功したのは、石油ショックや円高など外部の市場環境圧力があったからである。また当時の日本政府が実施した産業政策のうち最も有効であったのは、政府の補助金や政府主導の合併推進政策などではなく、公平な市場を実現するための関連法規の整備、環境規制の強化、企業への投資減税、金融システム改革などの産業全体に関わる環境の整備だったのである。現在の中国政府の政策の中では、「インターネット+」政策が最も秀逸であると思う。この政策において中国政府は、高度なネットワークインフラの整備と関連法律の整備に徹している。そのため実際のITサービス事業の分野では、多くのイノベーション企業が出現し、またネット購買などで国民消費も飛躍的に伸びている。 中国の製造業のイノベーションを促進するためには、政府主導による国内への設備投資よりは、中国企業の対外投資や海外進出支援に力を入れるべきだろう。中国では、今年に入って企業の対外投資が増大し大型化してきている。中国政府は、企業のグローバル化を支援するために、例えば企業の資金調達手段の多様化や貿易関連保険の整備、国際物流などの産業インフラ整備に力を入れていくべきである。中国企業が世界の市場で多くの経験を積み、市場ニーズを自らが把握できるようになれば、国内の産業構造は自然に転換していくだろう。
上述したように、中国が自身の経済成長の転換(モデルチェンジ)を実現していくためには、中国企業のグローバル化を加速させ、世界経済の市場メカニズムの中で改革を進めていくことが近道になると思う。また日本企業も現在、国内市場の縮小傾向という環境条件下で、対外投資や事業のグローバル展開には積極的に取り組んでいる。 日中の企業は、構造改革途上の自国市場だけでビジネスを拡大させていくことは容易ではなく、そのため両者が手を組んで第三国市場を開拓していくことが極めて重要な戦略になりうる。日本企業には長年の海外事業に伴う「信用」という財産があり、中国企業には豊富な「投資資金」がある。 現在最も重要なことは、日中の企業同士の対話をもっと深めることであろう。両国政府には、外交上等の複雑な問題があってなかなか胸襟を開けない事情が存在する。しかし共に世界市場に直面している企業同士であれば価値感を共有でき、日中企業間の対話と交渉を進めれば、ビジネスチャンスはより大きく広がることは間違いない。例えば、日中企業による「ビジネスサミット」のような会議体を開いてみる価値はあるだろう。(文=清華大学・野村総研中国研究センター理事、副センター長 松野豊)
「中国網日本語版(チャイナネット)」2016年9月4日