◇留学体験の新鮮な驚きがテーマに◇
卒論のテーマが多元化したのは6~7年前からだ。2006年以降の主なテーマを見ても、「日本企業の産業空洞化」「ネットニュースの可能性」「お祭りにみる日本人の伝統精神」「日本の食文化に潜む和の精神」「現代日本女性の結婚観」「日本の介護制度の行方」「日本特許明細書の翻訳作業の問題点」「日本企業文化の考察」「日本の厖大な専業主婦層を支える要件」「ニートになる原因と対策」「日本のサラリーマンはなぜまじめに働くのか」「日本高齢者の第二の人生」「日本人若者の友人関係希薄論」などとなっている。日本でそのときどき話題になった社会問題や社会情勢を反映しているのが良く分かる。これらの課題は数年後には、中国にも波及してくることを学生は敏感に予測して、卒論のテーマに選択したようだ。
従来の文学作品などをテーマしたものもある。「太宰治の『人間失格』から見る作家の精神世界」「『菊と刀』から見られる日本人の生き甲斐」「『春の雪』から三島由紀夫の非三島の探索」「歌舞伎における日本人の美意識」「白居易が日本文学に与えた影響」「日本文化と周作人の女性観」「『ダンス ダンス ダンス』に見られた村上春樹の苦境」などほんのわずかである。
今年卒業した4年生の卒論のテーマは、さらに広範囲にわたっている。[アニメにみる日本人の死生観]「日本熟年女性の離婚観」「日本、中国大陸、台湾のお笑いの比較」「日本と台湾の未婚化」「日本の若者の自殺問題」「日本の不動産バブルと中国の不動産への啓示」「宮崎駿作品の女性主義」「不登校」「無縁社会」と各方面にわたっている。このように多元的なテーマになったのは、日中の人的往来が増えたことと、学生自身も積極的に留学する機会が増え、異文化を直接体験する機会が多くなったからだ。
私が担当した昨年の3年生は、18人のうち14人が日本に留学に行き、前期は4人だけの授業となった。後期からは残った2人も日本に留学に行き、7人が日本から戻り9人の授業となった。3年生までにほとんどの学生が、日本に留学するようになったのもここ2、3年間のことだ。日本に留学し、初めて異文化の中で生活すると、すべてが新鮮な驚きとなって、それが卒論のテーマにもなるのだろう。
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