斎藤文男(南京大学日本語学部専家)
「“さよなら”だけが人生だ」今年も、そんな言葉が胸に去来するなかで、6月末までに全員が巣立った4年生の教え子を見送った。今年で11回目の“さよなら”だ。南京大学は今年5月、創立110周年を迎えた。私もちょうど10分の1の歴史を刻んだことになる。今年は送りだした学生の卒業論文テーマが、それぞれユニークで面白いものが多かったのが印象に残る。大学の歴史とともに、学生たちが取り組む目も次第に多元化しているのだろう。
◇人的往来が増え、卒論テーマにも幅が◇
日中間の人的往来は、1972年の国交回復時にはわずか9000人ほどだった。1981年には12万7000人になった。2010年には514万人(訪中日本人373万人、訪日中国人141万人)と38年間で571倍に急増している。人的往来が増えるとともに、相手の国に対する視野も広がってくる。
1980年代前半に南京大学を巣立ったある卒業生は、「私たちのときは、直接日本人と接触する機会は限られていて少なかった。満足な辞書もなく、日本に関する資料はほとんどなかった。だから夏目漱石や島崎藤村のような文学作品や、日本語の文法を卒論のテーマにする人が多かった。今は日本との交流も多くなり、ネットでさまざまなことを調べられるので、選択できるテーマも広がったのでしょう。」と述懐していた。90年代になってもほぼ同じような傾向だった。
私が南京大学に赴任した01年や、02年の卒業生も、多くは日本の文学作品や作家像についての考察や分析が中心になっていた。中国経済が発達し、日本との各階層の交流が活発になるにつれ、テーマの幅も広がっていった。
南京大学仙林校舎で行われた創立110周年記念式典
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