◇刺し身の盛り付けや器の向きにも◇
久しぶりに美味しい刺し身が食べたいと思い、南京市内の日本料理店に友人を誘って行った。手前にイカやタイなどの白身魚を置き、脇にはホッキ貝、奥にはマグロやサクラエビなど色の濃いものを盛り上げるようにあしらってある。季節感を出すために手前には、ひと茹でしたアスパラを3本のせ春を表現していた。盛り付けた前後がはっきりと分かるように、背後には茶道具の一つである風炉先屏風(ふろさきびょうぶ)の役目のように、長さが異なる垣根をくの字に配置して、全体の盛り合わせを引き締めていた。これを加えることによって、盛り付け全体が広大な景色のようになり、刺し身の盛り合わせに日本の食文化が詰まっているように見えた。周囲には氷で余白の美を作り、彩や全体の形など実に見事な「日本料理」だった。
日本人の色彩感覚と安定感に基づき盛り付けされた「刺し身盛り合わせ」(南京市内の日本料理店で)
このような日本料理の基本が、中国の陰陽五行説に由来していることを知っている人はあまり多くない。日本料理の本にも、「刺し身は必ず奇数盛りに」と書いてある。しかし、なぜ「必ず奇数」なのかは書いてない。「陰陽説」に由来していることを明記すれば、日中食文化への関心も深まるのではないだろうか。
料理を乗せる器でとじのある曲げ物も「丸前、角向こう」という言葉がある。円形(陽)もののとじは手前に、四角い(陰)ものは向こう側にするというしきたりである。「五行説」からは、「五味」「五色」「五法」の「五つの味覚」「五つの色合い」「五つの調理法」が日本料理の基本とされている。
日中食文化は密接に結びあっているなかで、日本の文化審議会は今年2月、「日本人の伝統的な食文化:和食」をユネスコの世界無形文化遺産に提案することを決めた。早ければ2013年11月にも無形文化遺産として登録されるという。
日本料理が世界的な無形文化遺産として認められることは嬉しいが、中国文化とも長く、深く関わりがあることをこの際、ちょっと考えてみてはどうだろうか。同じ根っ子から生まれた食文化を持つ“兄弟”が、事あるごとにいがみ合っていたのでは、「七歩の詩」を命じた兄・曹丕(そうひ)と弟・曹植の争いを憂慮した父親の曹操が、2000年ほど後の現代の“兄弟喧嘩”にも眉をひそめているのではないだろうか。(写真はすべて筆者写す)
「北京週報日本語版」2012年4月24日 |