このところの中東混乱の再燃により、米国の中東政策、特にシリア軍事介入の政策決定が「危機」に陥っている。しかし米国のヘーゲル国防長官は先ごろ時間を割いてフィリピン、インドネシアなどを訪問、ASEAN国防相会議に出席し、地域諸国に米国との軍事協力を強化するよう盛んに騒ぎ立てた。これは、中東の混乱が米国のアジア太平洋回帰戦略配備をかく乱したり遅延させたりしておらず、「回帰」がある程度加速すらしていることを示している。
事実、米国のアジア太平洋回帰戦略には極めて強い強靭性と持続性がある。1つには、中東の混乱にはおそらく「最悪の事態はなく、あるのはさらなる混乱だけ」であり、宗教や民族などの問題が山積し、ほんの少しだけ動かしても全局面に影響が及ぶような状況にある。「2回の戦争」失敗経験で、米国は中東を改造し「混乱を収拾する」能力に限りがあることを深く思い知らされた。しかしシェールガス革命、対中東エネルギー依存度の低下、テロリズムの脅威の減少、無人機による「ピンポイント爆撃」など軍事投入の減少に伴って、中東における米国の利益は大幅に減っている。エネルギー独立性が高まり、長期間にわたって当該地域への輸出や投資が少ないため、中東混乱の米国利益に対する影響は限られているが、中国などこの地域のエネルギーや市場に高度に依存している新興国にとっては、巨大な試練である。中国など競争相手の「混乱による弱体化」を、米国は喜んで見ている。
その一方で、オバマ政権は、世界発展の中心が東に移ったこと、21世紀が「アジア太平洋の世紀」であること、そして米国の利益におけるアジア太平洋の重要性をはっきりと認識した。さらに重要なのは、アジア太平洋を舞台にした中国の台頭に対する怖れが、米国の覇権的地位に影響を与えていることだ。そのため、米国のアジア太平洋回帰は、地域発展の経済利益奪取を狙ったものであり、さらには中国との競争で戦略上の主導権を取ることも狙っている。