本誌記者 黄 衛
洛扎県はチベット自治区山南地区の最奥、ヒマラヤ山脈の南麓にあり、ブータンに隣接する県だ。山南地区の官庁所在地から洛扎県官庁所在地の洛扎鎮まで、車で7、8時間、洛扎鎮から各郷鎮まではさらに4、5時間かかる。郵便用道路がないため、ラサで印刷された『チベット日報』紙が洛扎鎮に届くころには「日報」が「週報」と化している。
「こうした状況も間もなく変わると信じている」こう語るのは中国共産党洛扎県委員会書記の嘎瑪旦巴(ガマタンパ)氏だ。山南地区12県の書記の中で唯一チベット族である同氏は、中国共産党第17回党大会代表に選ばれ10月15日から21日まで同大会に出席した。 今大会で選出された代表のうち少数民族は10.9%で、5年前の前回大会を上回る。全国55の少数民族のうち、42の少数民族が代表に選ばれている。チベット自治区には73県あり、今大会代表団には2名の県委書記がいるが、その一人が44歳のガマタンパ氏だ。
彼は西南農業大学卒、中央党校で研究生課程を修了した学歴を持つ。長年、山南地区の土地、農業・牧畜、水利などの末端組織で仕事をしてきて、洛扎県委員会書記に就任する前は曲松県県長の職にあった。 「中国語も話せない普通の若者だった私が、チベット族の優秀な人材を抜擢するという共産党の政策のおかげで末端組織の指導者になれた」と語る彼は、中国の改革開放とともに成長してきた。この20年間、チベットの変化を目の当たりにしてきた彼はこれを「驚異的な発展」と言う。
洛扎県は、面積5031平方キロ、人口1万8000人。農民と牧畜民が分散して居住しているが、ほとんどの人が峡谷地帯で暮らし、交通の便はきわめて悪い。ここ数年は、中央政府が現地のインフラ設備の建設を援助し、2年間で689キロの自動車道が新たに開通し、小規模水力発電所が新たに5カ所建設された。今では各郷鎮まで自動車道が通じ、電話も引かれた。
ガマタンパ氏によると、中央政府の「新しい農村建設」のかけ声のもと、チベット自治区では昨年から「安居工程」(低価格住宅の開発プロジェクト)を進めており、5年間で同自治区の80%以上の農民・牧畜民に住宅を供給する予定だ。現在、洛扎県の中で悪条件の家に住む世帯や家を持たない世帯、貧困世帯は国から住宅建設援助金として1万元から2万元が支給され、1300世帯余りがトイレ・キッチン付きで家畜と住み分けのできる新居に入居した。
「庶民にとって理論や理念は絵空事。彼らが興味あるのは、子供が学校へ行けるかどうか、病気が治せるかどうか、といったきわめて現実的なこと」と語るガマタンパ氏は、現在の中央指導部を実務的で実行力があると見ており「民生に関心を払うことは、胡錦涛総書記の政治報告の実践になる」と考えている。 同氏は、政治報告の中の「都市・農村の統一的発展」、「協調的な区域発展」という観点を高く評価し、「中央政府の支持と内陸部の豊かな地区の援助がなければ、今日のチベットの発展はなかった」と話す。
「科学的発展観」はチベットの今後の発展にとっても重要だ。チベットは海抜が高く、自然災害の多い地域だ。いったん環境が破壊されると、とりかえしのつかないことになる。人工で植樹や植草をしても、ほとんどの地区がそれを根付かせることのできない土地だからだ。したがって、ほかの省・自治区以上に本来の生態系の保護が必要な地区だ。「幸いにも青蔵鉄道の建設では、過去の“まず壊し、あとで回復”という教訓を生かし、当初から投入資金の5%を生態系の保護に充てた。鉄道が開通して1年あまり、環境破壊は起こっていない。チベットカモシカの生息数も減るどころか増えている」と同氏は証言する。
党建設も今大会の焦点だ。党の末端組織の指導者としてガマタンパ氏は、党にとっては社会の調和と発展の提唱と同時に、公平性・公開性と公正さ・清廉さを保証することが非常に大切だと身にしみて感じているという。「多くの法律と制度がすでに成立したものの、それらが十分に執行されず定着していないことが当面の問題だ。そのほか、反腐敗にいっそう力を入れなければ、共産党の威信にかかわる」と彼は最後に強調した。
「北京週報日本語版」2007年10月22日 |