ノーベル文学賞受賞作家の大江健三郎氏の最新長編小説「水死」中国語版の出版記念発表会が16日、中国社会科学院で行われた。人民日報海外版が伝えた。
著者最後の長編と銘打たれた大江健三郎氏の小説「水死」は、2009年に日本で出版され幅広く注目を集めた。小説の構想は、1970年の著作「沖縄ノート」の記述をめぐり、右翼団体から名誉毀損で訴えられた経験から着想したもの。「沖縄ノート」は第2次世界大戦が終る直前、沖縄戦の旧日本軍指揮官が現地の住民を集団自決に追い込んだ惨劇を暴いている。大江氏は法廷で答弁をしている最中、この主人公が被告席に立ったときにどのように自分を弁護するかについて考えたという。「水死」の主人公は大江氏の亡き父親がモデルであり、第2次世界大戦前後の異なる時代の精神を的確に描き出している。
莫言氏が「水死」中国語版の帯に添えた推薦文には、「大江先生の新作『水死』を読むと、屈原(中国戦国時代の楚(そ)国の忠臣・詩人)の「離騒」の一節『路は漫々として其れ修遠なり、吾将に上下して求め索ねんとす』を思い起こす」と書かれている。
中国の作家・閻連科(イェン・リエンクー)氏はこの小説を理解するのは非常に難しいという考えを示した。「小説に描かれている物語はとてもシンプルだが、非常に構成が複雑だ。これは、大江氏が自ら語る『後期の仕事(レイター・ワーク)』や『晩年のスタイル』であり、演劇などさまざまなものを盛り込んだ大江氏の博学ぶりが見て取れる。大江氏はノーベル文学賞を受賞後、受賞前よりもさらに多くの本を世に生み出しているが、この現象も非常に珍しい」と分析する。
同書の翻訳者・許金龍(シュー・ジンロン)氏は、大江氏の「水死」は同氏の小説執筆のレトリック体系に、新しい構成様式を加えたと見ている。大江氏は「水死」という小説の形式を借りて、自身の精神史を解き、日本社会に見られるさまざまな危険な兆候の根源に絶対天皇制という社会的論理があるという考えを示しており、日本人の精神の根底にある絶対天皇制という社会論理、何ものにも比較できないほど巨大で、あらゆる場所に存在する「旧王」を抹殺し、日本がもたらした平和的で穏やかな民主主義という「新王」を迎え入れるように人々に呼びかけている。これは大江健三郎氏による、魯迅の「絶望の虚妄なることは、まさに希望と相同じい」(「野草」)といった論述に対する新たな解釈であり、作者が絶望の中で希望を探し求める精神過程を表している。(編集MZ)
「人民網日本語版」2013年7月31日 |