一方、練習以外の時間では、中国人選手達を自分の娘のように可愛がった。ロンドンへの出発式と開会式前には、選手達にスカーフを巻き、「自分の最も美しい一面をみせるのよ」と励ました。少ない休みの中で、選手達を北京の友人宅に連れて行き、おにぎりを作って振る舞った。大阪で待っている愛犬の写真を取り出し、幸せを分かち合った……。
井村氏の世界的視野とトレーニング手法は、中国シンクロチームを着実に成長させていった。しかし私が真に心を打たれたのは、スポーツとは関係ない部分だった。2008年に日本で「ギョーザ事件」が起きた際、井村氏は事件発生後、マスコミ各社の北京特派員をマンションに呼び、「皆さんは中国に長くいらっしゃるので、真の中国をご存知でしょう。ありもしない噂ではなく、真実を日本に伝えて下さい」と呼びかけた。これはある日本人記者から聞いた話だが、同席した記者らと熟慮した結果、この話を公にはしなかったという。2008年北京五輪を終えて帰国し、大阪府松原市教育委員長に就任した井村氏は、その後中国をテーマに多くの講演を行っている。それこそが日本人の中国への理解を深める最も直接的な方法と考えているからだろう。
「スポーツは国と国の競争ではない。スポーツとは夢のために水中に飛び込むことであり、夢を追いかけてひた走ることである」。親友であり日本水泳飛び込み代表チームの馬淵崇英(まぶち・すうえい、中国名・蘇薇、上海出身)コーチが井村雅代さんに贈った言葉だ。61歳の井村氏にとって、スポーツはとっくに国境を越え、競争を超えた。ありがとう、井村先生!(香港紙「文匯報」/編集HT)
「人民網日本語版」2012年8月14日 |