こうした「どこにでもいる人物」は、高度経済成長期に社会の片隅で生きている名もなき人たちを彷彿させるものである。本当を言えば、我々のそのほとんどが、無数にある何がしかの集団のただの一人に過ぎないのだ。

山田監督のもう一つの代表作「遙かなる山の呼び声」は、純朴な男女の心の交流が、観客の心の琴線を震わせる。1980年代、映画は純粋で幻想的な世界観を映し出すものであった。北海道の大自然の四季折々の真の美しさを銀幕に映し出せているのは「遙かなる山の呼び声」だけだろう。田島（演：高倉健）と民子（演：倍賞千恵子）の間に生まれた淡く切ない交情を、北海道の美しい風景を舞台に、きめ細やかなタッチで情感豊かに綴れるのは山田監督ならではというところだろう。その点では馮小剛監督の「非誠勿擾」（邦題：狙った恋の落とし方）が描く北海道は、観光的価値のある美しい景色を映し出しているだけに過ぎない。

50年間関わり続けた映画の世界で、山田洋次監督は常に社会の片隅に生きる人々にスポットライトを当て、ダメ人間に対する理解や寛容性を、映画を通して社会に求めてきた。それは決して容易いことではないはずである。中国では改革開放以降、映画監督の人数も作品数も数字の上では大きく増えているが、山田監督のようにダメ人間にスポットライトを当て続けられる監督は数えるほどであろう。あるとしても、海外で認められている作品となればいくつもないはずである。

巨額の資金力をバックに、古代中国の歴史の一幕を壮大なスケールで撮影し、暗黒・狡猾・背徳を描いた中国時代劇は数え切れないほどある。だが、観客の心にずっと残る作品は一体何本あるというのだろう？山田洋次監督が、利益を考えず人情味や寛容性を追求した作品で成功を収めたことは、中国の映画監督らを刺激する材料になってもらいたいものである。

｢中国網日本語版(チャイナネット)｣　2012年6月15日