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中国と日本  
劉徳有会長 大平正芳氏と中日関係を語る

 

碑林を参観された時

肖向前氏はこのことについて、回顧録のなかで、「大平外相が、国益を損なったとか、間違いをしたと言うような非難を断固否定したニュースは、毎日テレビを通じて流されていた。画面の大平外相は正直者で、人々に落ち着いた良い印象を与えた。当時、時々藤山愛一郎先生に会って政治や情勢の話をしていたが、藤山先生は、国会質疑の時の大平氏はとても“すばらしい”。藤山自身も含めた明治維新以降の外相の中で、大平氏は抜群で、日中国交の樹立と日中関係の発展に関して、負うべき責任をすべて勇敢に負った、と賞賛した」と書いております。

私は1978年の6月に、15年の長きにわたる日本での任を終えて帰国いたしましたが、帰国してまもなく、その年の12月に大平先生は日本国の総理大臣になられました。そして、明くる1979年の12月、大平先生は首相として初の中国訪問を実現され、大きな成果をあげられました。北京訪問を終えられた後、大平先生は古都西安に行かれましたが、碑林を参観された時、「温故知新」の四文字を揮毫されました。

今年の5月、所要で西安に参りました時、30年前の大平首相のあの記念すべき揮毫が碑林博物館にまだ保存されているかどうか訊いてみたところ、館長の裴建平先生はこころよく私の願いを聞き入れ、係り員に命じて保存してある文化財の倉から持ち出して見せてくださったとき、正直言ってまったく意外であり、感無量でした。二人の女性の係り員が白い手袋をはめ、ゆっくりと丁重に掛け軸を広げた時、 大平首相のあの特徴ある筆跡「温故知新」の四文字が30年の歳月を閲した今日なお、墨痕鮮やかに生き生きと躍動して人々の心をとらえ、息をのむような感動を覚えると同時に、胸の高まりを抑えることができませんでした。

「温故知新」、――故きを温ねて新しきを知る、これを今流に解釈すれば、「歴史を直視し、未来を志向する」という意味ではないでしようか。私は大平先生の揮毫された「温故知新」を拝観しながら、先生が1979年12月7日全国政治協商会議の大ホールでなされた演説の中の一節を思い出しておりました。演説のタイトルは「新世紀をめざす日中関係――深さと広がりを求めて」でありました。

大平先生は次のように言われました。「由来、国と国との関係において最も大切なのは、国民の心と心の間に結ばれた強固な信頼であります。この信頼を裏打ちするものは、何よりも相互の国民の間の理解でなければなりません。

しかしながら、相手を知る努力は、決して容易な業ではないのであります。日中両国は一衣帯水にして二千年の歴史的、文化的つながりがありますが、このことのみをもって、両国民が充分な努力なくして理解しあえると安易に考えることは極めて危険なことではないかと思います。ものの考え方、人間の生き方、物事に対する対処の仕方に日本人と中国人の間には明らかに大きな違いがあるように見受けられます。我々は、このことをしっかり認識しておかなければなりません。体制も違い流儀も異なる日中両国の間においては、尚更このような自覚的努力が厳しく求められるのであります。このことを忘れ、一時的なムードや情緒的な親近感、更には、経済上の利害、打算のみの上に日中関係の諸局面を築き上げようとするならば、それは所詮砂上の楼閣に似たはかなく、ぜい弱なものに終わるでありましよう。」

そして、さらに続けてこう言われました。「相互理解を深めるうえで人の往来を盛んにすることの重要性については、あらためて多言を要しません。私は、この点に関し、とくに両国間の文化学術面における交流、あるいは留学生等の交流を大切にしたいと思います。今回の貴国訪問に際し、我が国は、貴国との間に文化交流協定を締結いたしましたが、私は、今後、この面からも、両国の友好関係が一層深まることを期待いたします。」

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