絵本作りについて説明する宮西氏(写真提供:北京蒲蒲蘭文化発展有限公司)
児童書・絵本などで知られる出版社ポプラ社の中国現地法人・北京蒲蒲蘭文化発展有限公司は先月30日、「おまえうまそうだな」、「おとうさんはウルトラマン」などで知られる日本のベストセラー絵本作家の宮西達也氏を招いてセミナーを開催した。このセミナーはポプラ社が2004年に北京に現地法人を開設して以来、初めて絵本を作りたい人向けに企画した特別セミナーだ。同セミナーで、宮西氏は中国語による絵本の読み聞かせを行ったほか、絵本作りのコツなどについて講演した。人民網日本語版が伝えた。
北京の中心にある観光地・後海に程近い胡同(フートン)の中にひっそりとたたずむ北欧風に改装したレストランを会場にして行われた講座には、約40人を超える人々が集まっていた。参加者の顔ぶれも非常に多彩だ。プロのイラストレーター、新人の絵本作家、絵本作家の卵のほか、子供に絵本づくりを教えたいという主婦や、美術教員、大学の教授、絵本館を開設しているオーナー、編集者、大学生、9歳の少年などさまざまな人たちが一堂に会した。
■絵本に触れたことがない若者が大部分を占める中国
意外なのは、絵本に初めて触れたのはいつかという質問に、「去年」、「今年」といった人も含まれていたことだ。最も早く知った人でも、10年程前のことだという。教育の一環として絵本の読み聞かせが浸透している日本とは異なり、中国で絵本という概念が定着しはじめたのはここ最近のことだ。大都市の外国文化に触れる機会が多い人を除き、通常の2級・3級都市に住む人々にとっては、絵本を見たことも聞いたこともない人が圧倒的だ。ファインアーツを専攻する有名美術大学の大学生に聞いても、絵と文が一体となった、台湾の絵本作家ジミーのような本と説明されてようやくイメージがわくという状態だ。しかし、中国政府は近年、マンガ・アニメプロジェクトと連動して、絵本にも力を入れ始めている。絵本作家育成プロジェクトと称するセミナーや講演も、美術大学を中心に開かれ始めている。
■「おまえうまそうだな」を読んで涙が止まらなかった。この本が人生を変えた。
参加者にセミナーに参加した動機を聞いてみたところ、夢工場児童倶楽部(Dream Kids Club)を経営する李魯湘さんは、「以前は美術教室の教師をしていたが、今は絵本館を開いて子供たちに絵を教えている。すべては宮西先生の絵本『おまえうまそうだな』を見たのがきっかけ。読んだときは涙が止まらなかった。読みおわった後、すぐに教師を辞めて絵本館を作ろうと決意した。この絵本が私の人生を変えた」と語る。また、イラストレーターで絵本作家志望の党漢◆(文へんに武)さんは、数年前に友人が経営しているカフェ店でたまたま置いてあった宮西先生の絵本「おまえうまそうだな」を読んで、号泣したのだという。「自分には妹がいるが、先生の『まねしんぼ』を見て、さらに号泣した。そして、妹の誕生日プレゼントにこの絵本をプレゼントした。妹は他省で働いていて、自分は北京にいるので、なかなか普段会えない。でも、この絵本をプレゼントした後、兄弟仲もさらによくなり、今では頻繁に連絡を取り合っている。それもあって宮西先生の絵本は自分にとってすごく大事なもの。自分の小さい頃の思い出がそこには詰まっているし、家族の愛情の絆を強めるものが描かれている。今日は大好きな先生に会いに来た」と語った。このほか、約30年前の小学校の授業以来絵を描いたことがないという2歳の男児を持つ母親の馮雪さんは、「実は幼い頃、学校で絵を描いたときに、自分ではすごく良く描けたと思っていたのに、学校の先生に『この絵はひどい。きみは描かないほうがいい』と言われたことがある。すごく悲しくて、これをきっかけに私には絵の才能がないんだと思い、絵を描くことをやめた。子供には将来もっと絵に親しんでほしいので、どんな絵本を薦めたらいいのかなど学習のために来た」と語った。
■読み聞かせに大きく反応する9歳の少年。子供の目線に立った絵本づくり
宮西達也氏は、忙しい最中を縫って定期的に中国を訪れ講演を行っている。「中国が大好き」と語る宮西氏は、講座では片言の中国語を駆使して、絵本の読み聞かせを行った。すると、大勢の大人の中に一人だけちょこんと一番前の特等席に座って宮西氏の講演を聞いていた9歳の少年が非常に大きな反応を示した。最後から最後まで大きな声で笑い続けているのだ。いかに、宮西氏の描く絵本が子供の視線にたって描かれているのかが証明された瞬間だ。とくに妹が家族の真似ばかりする様を描いた「まねしんぼ」や大好きなお母さんのおっぱいを弟に奪われた兄の気持ちを描いた「おっぱい」では身体をのけぞらせながら笑っていた。これに対して、宮西氏は「私の作品はすべて自分の思い出や経験に基づいてストーリーを作っている。絵本は主題がなければなりたたない。そうでなければリアルではないし、読む人も感動しない」と語る。
■「絵本とは親から子供に伝承するもの」、「絵の上手下手は一番身近にいる人の言葉に影響される」
午後に行われた絵本作りの実践セミナーでは、馮雪さんが「いったいどのような絵本を子供に読み聞かせたらいいのか?」という質問を行った。宮西氏は「別に子供の好みや目線に合わせなくてもいいのではないか。絵本とは、親から子供に大切なことを伝承するもの。評判がいいからと言って、親がいいと思えないものを読ますのではなく、親がいいと思うものを読ませたらいい」と回答した。また、講演で宮西氏が強調したのは、「子供の絵をけなしてはいけない」ということ。大人の凝り固まった概念で子供の自由な感性を抑圧しないでほしいとして、「子供が自分の絵を下手だと思うのは、学校の先生や親の言葉による先入観」と語った。
■未成年の読書量の減少が危惧される中国
中国新聞出版研究所がこのほど発表した「第10回全国国民読書調査」の結果によると、2012年の0-17歳の未成年の書籍読書率は77%で、前年比1.6%の減少となり、2012年の未成年の一人平均の読書量は5.49冊だった。この原因として、子供たちの興味がマンガ・アニメに向いていることを挙げている。同調査によると、9歳-17歳の未成年のアニメ・マンガの接触率は84.8%だった。また、中国の小・中学校の教育は社会問題になるほど詰め込み式で、小学生でも毎晩9時まで宿題をし、朝7時に学校が始まるという生活を送っているので、読者などする時間がない。このほか、ピアノ、二胡、英語、ダンスなどいくつもの習い事をしている小学生も少なくないという。こういった詰め込み式学習を背景に、絵本による情緒教育が重視され始めている。とはいっても、今はまだ目立った現象にまでは成長していない。話題になるのは月刊発行部数500万部を突破し、週刊少年ジャンプや週刊少年マガジンに継いで世界第3位の発行部数を誇るマンガ・アニメ雑誌「知音漫客」や、キャラクターから始まってアニメにまで成長した「阿狸」など、やはりまだアニメ・キャラクターが中心だ。
■読み手である読者層の形成から、作り手側である絵本作家の育成への移行
北京蒲蒲蘭文化発展有限公司は2005年、国望に世界中の絵本を販売する絵本館を設立した。ポプラ社の管理部総監の王蒙氏によると、フランスなど欧州の絵本に比べて、日本の絵本はやはり同じアジア人として近い文化を共有するせいか人気が高いという。「とくに宮西先生の絵本は家族関係や絆を描いたものが多いので、中国人にとっても非常に受け入れやすい。60年代生まれの人と比較すると、80年代生まれの新世代の親たちは子供の教育への観念や子供に対する考え方に大きな違いがある。経済も発展し、環境もよくなったせいで、子供の精神性や感性を育てたいと考える人が増えている」と語る。読者層を育てながら、作り手の絵本作家の育成に力を入れ始めた北京蒲蒲蘭はすでに中国人の絵本作家によるオリジナル絵本の出版を始めている。この10年のアニメ・動画の発展・成長速度からすると、多くの中国人が絵本を受け入れる時代とともに、中国人のベストセラー絵本作家が現れる日もすぐ来るかもしれない。(編集MZ)
「人民網日本語版」2013年9月5日