急激な円安による利益は、自動車業界に集中的に反映された。日本自動車業界の最大手であるトヨタ自動車が5月8日に発表した、2013年会計年度業績予想によると、グループ全体で1兆8000億円の連結営業益が見込まれており、その収益率は新記録を更新する可能性が出てきた。
しかし好調は長く続かなかった。日本の株式市場は25年ぶりの最高値を更新した後、再び下落した。5月22日に5年半ぶりとなる1万5924.6円のピークに達すると、日経平均株価は12営業日で17.7%安となった。ドルに対する円相場も、4年半ぶりの円安を記録してから、再び円高に傾きつつある。
日本の株式市場は、世界で最も恐ろしい投資市場になった。年初は輝きを放っていたアベノミクスも、一瞬で輝きを失ってしまった。
日本の多くのエコノミストも反省を始めており、アベノミクスの理想的な目標が実現不可能だとしている。アベノミクスにより利益を得た日本企業さえも、実際の行動により安倍首相の当初の目的に背き始めている。
同じくトヨタを例とすると、同社はアベノミクスから大きな利益を得たにも関わらず、国内投資・雇用機会を増加し、川下産業全体をけん引するという切実な期待に応える気はないようだ。
トヨタの豊田章男社長は4月19日にニューヨークの記者会見で、2015年より米国でハイエンドブランド「レクサス」の生産を開始すると発表した。トヨタは米国で5億ドルを投じ、中型高級セダン「ES」の年産を5万台に拡大しようとしている。米国市場で最も人気のある高級セダンのレクサス・ESは、これまでトヨタの九州工場で生産されていた。トヨタはこれにより高い生産利益を獲得し、為替相場の変動を受けにくい生産構造を構築しようとしている。
日本国内の物価について見ていくと、安倍首相の一連の措置は、フェラーリ、ゴルフクラブ会員資格、高級マンション、高級酒の価格を引き上げただけで、日用品に大きな影響は生じていない。
日本では小売・電子などの産業の競争が激しく、流通している通貨が増加したとしても、生産者側は軽率な値上げにより市場シェアを失おうとはしない。
しかも実質為替相場の下落は、日本の貿易・経済に改善をもたらしていない。安倍首相の実施した量的緩和策は、日本市場に投機的な資本のみを流入させ、市場の見せかけだけの繁栄を引き起こし、その日本の実体経済に対するけん引力は限られている。日本の輸出企業は円安により利益を得るが、原材料と部品を輸入に依存している中小企業は苦しい経営を強いられている。
実際の効果を見る限り、安倍首相の3本の矢はいずれも中心に刺さっておらず、むしろ的から外れている。
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