蔚県剪紙の伝統と未来
河北省蔚県の剪紙は明代が起源。独特のスタイルを持ち、国内外から高く評価されている民間芸術である。中国に多種ある剪紙芸術の中でも、蔚県剪紙は独自のものと言ってよいだろう。蔚県剪紙の代表的な作り手には王老賞や周永明がおり、題材は人物が多いが、ほかにも花草や魚、虫、鳥獣類など縁起のいいものが選ばれる。
剪紙技法を説明する河北省蔚県剪紙の伝承者、周淑英氏 (石剛撮影)
ここ数年、絶えざる発展と保護の強化により、この伝統ある蔚県剪紙芸術にも新たな活気が吹き込まれた。
周淑英氏は、世界無形文化遺産剪紙伝承芸術大師で、ユネスコから「中国民間工芸美術家」の称号を授与された。かつて王老賞や周永明など剪紙の大家に師事し、蔚県剪紙の正統な系譜にある第3世代の伝承者である。その作品は国内外の展覧会で何度も受賞し、文化交流の使者としてフランスやルクセンブルク、ベルギーなどで剪紙の実演をしたことがあり、その精巧な技芸は評価と称賛を浴びた。『清明上河図』、『百蝶図』、『生命樹』、『農家楽』、『彩福図』、『牡丹』などの作品が中央美術学院や中国美術館、国内外の著名人の収蔵品になっている。
ここ数年、蔚県剪紙の技芸は周淑英氏の指導の下で新たな飛躍と発展を遂げた。展覧会会場で記者は幸運にも周淑英氏から蔚県剪紙芸術の伝承と保護について直接話を聞くことができた。
「剪紙の題材にはいわれがあります。縁起のいい図案には吉祥と厄除けの意味があるし、子供やヒョウタン、蓮の花などには子宝に恵まれ幸福になるようにとの願いが込められています。家禽や家畜、瓜や果物、魚や虫は農民におなじみの題材でよくモチーフとして登場します。民間芸術である剪紙には地域ごとに違ったスタイルが強く残っています」。
ここ数年、国と地方政府の伝統文化に対する支持や援助にともなって、蔚県剪紙は河北省、ひいては中国が国外に伝統文化を紹介する際に欠かせない一枚看板になった。
最近では、コンピューターの普及で、伝統剪紙の従事者の中にもコンピューターでデザインし機械で紙を切る人が増えた。こうすることでスピードと経済収入が大幅に向上した上に、製作できる作品の数も驚くほど多くなった。こうした状況について周淑英氏は次のように語っている。「機械なら数分で出来ることを、私たち剪紙の職人は数年、十数年かけてマスターしていきます。だから手作りの剪紙作品のほうが繊細であたたかみがあり、活き活きとしていて、色が鮮やかで明るいのです。これは機械では出来ません。手仕事で作る蔚県剪紙を大いにアピールして初めて、その内包する文化が機械では替わることのできない中国人の宝であることを分かってもらえるのです」。
蔚県剪紙芸術のさらなる発展のために、周淑英氏とその兄弟らは河北省蔚県南張荘村の実家に「周淑英剪紙博物館」を作った。博物館では、実物や写真、説明文、模型などの形式で、全方位的かつ様々な角度から、明代から現在に至るまでの蔚県剪紙発展の歴史を展示している。同博物館で周淑英氏が育成した剪紙職人80名余りのうち、2名が国連ユネスコから工芸美術家の称号を授与され、8名が国家級剪紙大師として認定されている。
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