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井戸を掘る人々
──中国で、日本で、暮らして
 
~元北京駐在員のつぶやき~
25年前との比較による上海の発展とその問題点

 

浦東と言えば、私が留学した頃、今の浦東は全くなかった。東方明珠タワーは勿論、橋もトンネルもなく、ただ小舟で渡るのみ。対岸には古びた倉庫、低層の住宅があり、少し行くと田圃か畑だった。それが今や上海のオフィス街、高級住宅街となり、地下鉄7号線で降りた駅には巨大で超豪華な外資系高級ホテルが建ち、ショッピングモールもどんどんできている。

上海市の西南、1号線の終点駅、莘庄にも行ってみた。かつてこの街は、上海市の中心部の再開発に際して、移転を余儀なくされた市民が移り住んだところだと聞く。当時は相当遠い、田舎とのイメージであったが、今では郊外に延びる地下鉄のターミナルとなるべく、巨大な駅舎が建設されている。当然周囲も開発され、不動産価格も相当上昇したと聞く。地下鉄建設は周囲の環境を一変させ、そしてグレーター上海が形成されていく。

地下鉄に乗っていて気が付くことがある。東京で地下鉄に乗って一番困ることは、出口から地上に出た瞬間、どちらの方向へ行ったらよいか、分からなくなってしまうこと。その点今や東京に並みに複雑になった上海の地下鉄ではあるが、地上に出ると必ず道路表示があり、しかもそこに東西南北が書かれている。これにより地図を見れば方向が分かるのは嬉しい。

しかし上海の東京化、が見られる場面も多くなってきた。1つはラッシュアワー。以前は満員電車に無理に乗り込むことはせずに次の電車を待っていたが、今は完全に東京と同じで、ギューギュー詰め。次の電車がいつ来るのか表示も細かくなっている。これは時間に追われる生活が確実にやってきた証拠であろう。

また車内で若者が老人に席を譲らなくなってきていること。以前は老人が乗って来るとすぐに誰かが席を立ったものだが、今若者たちは流行のファッションを身にまとい、ヘッドホーンで音楽を聴いているか、ゲームに夢中。逆に老人が小さな子供に席を譲っている場面を見ると、今の中国の現実が見えてくる。

上海在住のある日本人曰く、「上海はどんどん便利になっているが、その便利さゆえ、ここが東京か上海か分からなくなる時がある。家とオフィスを地下鉄で往復するだけの毎日、これは自分が想像していた海外生活ではない。」と。

勿論上海人はもっと生活をエンジョイしているとは思うが、地下鉄の発展と共に人々の生活に変化が生まれ、そして異常なストレス社会が到来するのであれば、今一度考えるべきことがあるかもしれない。

筆者プロフィール

すが・つとむ 東京外語大中国語科卒。

金融機関で上海留学、台湾2年、香港通

算9年、北京同5年の駐在を経験。現在は

中国を中心に東南アジアを広くカバーし、

コラムの執筆活動に取り組む。

 「北京週報日本語版」2011年7月25日

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