須賀 努
北京には過去5年間も住んでいたのだが、恥ずかしながらバスに乗る機会はあまりなかった。理由は職場へ歩いていけたこと、そしてバス路線が複雑でどれに乗ってよいか分からなかったことなどである。今回1年ぶりで北京に行き、お気に入りの寛街に宿泊した。既に地下鉄5号線は出来ているものの歩くと10分以上掛かるし、目の前をバスが何台も走っていくのを見て、乗ってみることにした。
正直最初はバスの行先が分からずちょっと苦労した。何故ならバス停の地名が思い浮かばなかったから。例えば地下鉄には国貿と言う名称があるが、バス停は大北窯。この場所はかつてレンガを焼く工場が多くあったことから名付けられたと言うが、現在の高層ビル群を見て、この名前を連想できる人はいない。しかし逆に考えれば、これだけ発展を遂げた北京で昔を偲ぶのに、バス停の名前を見るのは楽しいかもしれない。特に昔を知る人々にとっては、懐かしさが湧き上がる地名が並んでいるのではないだろうか。
また自分の乗りたいバスがいつ来るのか分からないことは日本人としてはちょっと不安。東京のバス停にはバスの時刻表があり、バスが何処まで来ているか、あと何分ぐらいで到着するかが表示されているところもある。雨など降っていると結構気が揉める。夜の終バス時間が意外と早いのは、昔の名残だろうか。現在夜10時と言えば、それほど遅くない時間だが、これに乗り損なうと大変である。バスを存続させるには多少現在の生活習慣に合わせる必要があるかもしれない。
バスに乗って驚くことはその安さ。「北京の地下鉄はどこまで乗っても2元(約25円)です」と言われれば日本人は驚いてしまうが、「バスは僅か0.4元(約5円)」と言えば、これはもう信じることが出来ない。この料金で行きたい場所にバス一本で行けた時の快感はバス路線が複雑なだけにある種のゲームに勝利したようで格別である。庶民にとっても諸物価高騰の折、有難い料金である。因みに東京のバスは安くても200円(約16元)、地下鉄は最初の数区間が160円(約13元)、もしタクシーに乗れば最初の区間が710円(約60元)にもなる。北京の公共交通は世界でも格安ではないだろうか。いや、日本が特別に高いと言うことだろうか。
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