筆者の易憲容氏
日本が量的緩和政策を実行してから何年もたつが、そのせいで国際金融市場が激しく動揺したことは一度もなかった。しかし米連邦準備制度理事会(FRB)が2回目の量的緩和政策(QE2)を発表すると、世界の株式市場はたちまち全面的に急騰し、金や大口取引商品の価格も全面的に上がった。米ドル為替レートが急落する一方で、米ドル以外の通貨の為替価格は全て上昇した。
米国国内の通貨政策であるQE2が、これほどまで激しく国際市場を揺さぶったのはなぜか?
実際のところ、QE2発表後の国際市場の反応はその政策目標が何かによるものではなく、ブレトン・ウッズ体制崩壊後に国際通貨体系が金本位制からドル本位制へと切り替わったことによるものだ。
ドル本位制になった後、米国はある程度世界経済を牛耳った。米ドルは米国の主権が主導する信用通貨であるだけでなく、世界通貨となったからだ。金本位制の廃止後、米ドルの発行量は国際市場で流通する米ドルの需給関係ではなく、米国のメリットと米連邦準備制度理事会の通貨政策によって決められてきた。そのため、米連邦準備制度理事会の通貨政策は国際金融市場の通貨政策にもなり、米国の通貨政策のいかなる変化も国際金融市場に対する大きな打撃となり得るのだ。
ドル本位制の確立後、商品市場と通貨市場がまったく別々に形成され、この二つの市場の間には完全な比価の関係が成立し得なかった。こうした国際通貨体系の内在的欠陥により、いわゆる国際貿易の「世界的不均衡」はどうしても避けられなかったのである。経済と金融のグローバリゼーションが進めば進むほど、世界経済と国際貿易の成長は速くなり、米ドルに対する需要も高まって、米国は米ドル供給の拡大と増加を行わざるを得ず、その結果米国の国際収支赤字は絶えず拡大し、米ドル供給は増え続けた。こうした状況下で、米ドルは必然的に安値となり、それによってまた米国の貿易赤字と米ドル供給が増えることになった。国際経済のいわゆる不均衡とは、このようにして貿易赤字と米ドル供給が絶えず増え続けた結果なのである。
こうした欠陥により、大量に利益を求める国際短期資本が国際通貨体系によって全世界の金融市場に押し寄せ続けた。これも米連邦準備制度理事会がQE2を打ち出した後に国際市場が激しく動揺した原因である。
米連邦準備制度理事会のQE2に対し、中国はその政策のスピルオーバー効果を非難する以外にも、現在のようなドル本位の国際通貨体系を正視し、国際市場の反応や国際金融市場の価格、実体経済運営が受ける影響に対する注視と研究を行って、対応する政策を制定して国際金融市場が直面するであろう一連のリスクを警戒し、これを防ぐようにしなければならない。
中国の金融、貿易、外貨準備に対するQE2の打撃は小さくはないが、現在の経済運営情況からすると、2008年以来の特殊な通貨政策を次第に撤廃して通常の状態に戻すことが最重要事項であり、QE2のためにその方向を転換することはできない。そんなことをすれば、国内に氾濫する流動性は中国経済に巨大なリスクをもたらすだろう。
中国は国際ホットマネーの流入を厳しく警戒するだけでなく、資産価格バブルを制限し、国際ホットマネーが利ざやを稼ぐのを防止しなければならない。特に、不動産バブルが非常に深刻な今、国際ホットマネーが中国の不動産市場に流入することは禁じるべきである。
(易憲容・元中国社会科学院金融研究所金融発展室主任)
「北京週報日本語版」2010年11月24日