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元駐日特派員林国本さんの眼  
実務の世界から見た中国の外国語教育

 

私は実務の世界で外国語をツールとして歩んできた人間の一人であるが、この世界はいわゆる「学問の世界」といわれる外大とか総合大学の外国語学部、外国語学院に比べてはるかに人数も多いし、市場原理の揺れ動きに絶えずさらされている分野ともいえる。そして、ある面では、非常に内容の豊かな世界であり、一生を賭けるに値する分野でもある。もちろん、大学に残って、一つの分野をとことん掘り下げてその分野の第一人者となることも、大いにやりがいのある仕事である。どういう選択をするかというのは、その人の生き方ともかかわりのあることで、他のものがああしたら、こうしたら、と言える事柄ではない。管理職のコースを歩んで、大プロデューサーとしての役割を演じている人も知っているが、この人たちにとっては全国に散らばる外国語専門の人材がその演出の成果とも言えるわけで、「劇場国家」、「劇場のような世界」という今はやりのコンセプトから見るならば、これも実にやりがいのある仕事であろう。

私は日本語をツールとして使う対日報道の世界で数十年暮らしてきた人間であるが、たまたま英語も少しはかじっていたおかげで、中国人のかなりの人たちがたいへん「苦労」する日本語の外来語に関しては「朝メシ前にひとしい」状況であったので、スタートの時点からすでに有利な立場に置かれることになった。その後、十年ぐらいの間、あまり実務に励むことを推奨しない時期があった。その時代を生きた人たちのかなりは外来語の勉強に必要な英語の勉強を避けたケースもあり、その後の仕事の中で不便を感じていたようであるが、これは個人としてはどうしようもないことであった。さいわい、その人たちの子供の世代が改革・開放の時代に際会して、日本語も英語もできる状況にあるので、二世代にわたって不便を感じることは避けられた。中国という大国の歴史の中で個人はどう生きていくべきか、これはこの小文とは関係がないので、多言は控えるが、しかし、ネットワークの時代、ウェブの時代に入った今日、英語が出来ないと就職さえ難しくなっているのだから、やはり「知価社会」ともいわれる時代にふさわしいか、あるいはそれを先取りした知識の枠組みが必要なのではなかろうか。

さて、この辺で本論に入る訳だが、私は今の若者たちが日々直面しているニーズと学校での教育の間には大きなギャップがあるように感じるのである。さいわい、今の都市の若者たちのほとんどは2カ国語が操られるので、新しいニーズに対応するために自分を変えていくことの必要性をよく知っている。要するに、勉強というものは、「生涯の学習」であって、みずから絶えず開拓していかなければならないものである。先般、北京第二外大の通訳・同時通訳のコンテストの評議員としてお手伝いをしたが、その時、中国の少数の大学では経済のための外国語の教育をやっているところがあることも知った。私はこれは時代のトレンド先取りした新しい試みであると思うと同時に、若い人たちをあまり早い時期に一つだけの可能性に限定したに近い人生コースを歩ませることのリスクをも考えざるを得ないのである。たとえばの話であるが、子供の頃からバイオリンを習ってきたが、やがて、ギターやチェロの方が自分の感性により適していることに気がついて、そっちの方に切り替えて大成した人もあるのだ。

大学の教育はデパートのように、いろいろな「商品」を扱うことは不可能である。とくに外大の教育はやはり基礎的な勉強を主体とし、より専門的な勉強に向いている人たちは大学院に行き、実務の世界に入った人たちは、職場でのOJTや自己開発で絶えず自分を大きく膨らませていくことが主となるはずである。

余談になるが、私が特派員として東京に長期滞在していた頃、日本の六大新聞を購読していたが、当時、私は日本経済新聞に非常に興味を覚え、日経の記者にいろいろお話を伺ったことを今でも覚えている。つまり、私が関心があるのは、新卒のゼネラリスト・タイプの人間をいかにしてスペシャリスト・タイプに近い人間に作り変えたのか、ということであった。

先般、私の長年勤務していた対外報道部門では、経済の報道をこなせる記者を育てるために、文学とか、古典の勉強をしてきた若手記者に対していわゆる「カスタマイズ」の特訓を行なった。その結果、これまで日本文学を勉強をしてきた若手記者がかなりよい経済記事を書けるようになっているので、私はこの特訓を担当した友人にこれからもこうした「カスタマイズ・トレーニング」を続けるよう提案した。つまり、大多数の実務の世界に入った人たちには、このようなやり方が適しているのではないか、と考えるに至ったのだ。実をいえば、私のような第二線に退いた人間でさえ、今でも絶えずニーズの変化を読んで変身また変身を続けているのだから。大学のデパート化は、世界の現在の経済状況からみてユートピア的思考にすぎない。OJTでのカスタマーズこそ、唯一の道ではないだろうか。

「チャイナネット」 2009年12月31日

 

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