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元駐日特派員林国本さんの眼  
中日文化交流の中での翻訳の役割

 

 

                                  林国本

さいきん、中国の国際的地位の向上につれて、さまざまな形の2国間の交流がどんどん増えている。こうした交流の中で、翻訳とか通訳という職業がさらに重要性を帯びてきているようだ。私はラッキーなことに、メディアの世界でそれに近い仕事にずっと携わってきたが、その中でいろいろ感じるところも多かった。それを感想文のような形で綴ってみようかと思うが、なにしろ、このような仕事についている人の数がなんと数万人を超えるに至った今日のこと、私の感じたことは数万分の一のウェートしかない、個人的見解にすぎないが、参考までにまとめてみることにした。

ひと口に翻訳と言っても、言葉だけができてもだめで、バックグラウンドとなる政治、文化、経済と幅広い経験と知識がなければ到底務まらない仕事であると、痛感している。たとえば、ある会合で日本の学者が、「中国で起こった『反日デモ』は、という話題を持ち出したところ、中国の学者たちは「日本と関連のあるデモについて」という表現を使ってそれに答えていた。

私はこれは政治姿勢とも関連のある言語表現であるとみている。そして、もちろん、後者の方が正確である、とみている。

建国60周年を迎えようとしている中国で、この60年を振り返ってみても、「反日宣伝」、「反日教育」を行なっているところは皆無だ。

私がまだ若かった頃、ある日本の代表団に随行して汽車の旅をしていたとき、たまたま、私が乗り合わせた軟席寝台車のコンパートメントに、人民解放軍の佐官クラスの人も乗っていた。私が日本の代表団に随行していると話すと、その人は「それはすばらしいことだ。親切にしてあげなさい。過去は過去、未来に目を向けて日本の人民と仲良くするのだ」と言い、そうしているうちに、シャツをまくりあげて体のキズを見せてくれた。旧日本軍に射たれた時の弾片がまだ残っているのだった。しかし、「このキズのことについては日本人には話さないように」と言った。私は非常に感動した。大所高所に立って物事を見るとはこういうことを指しているのだろう。中国ではこのように、大多数の日本人民と、ひとにぎりの軍国主義分子をきんちと区別する教育を徹底させてきた。「反日」という表現を使うのは、その人間が未熟であることをさらけ出すだけである。

それなのに、高い水準の教育を受けた日本の学者、ジャーナリストが絶えず、「反日デモ」という表現を使うのは、なぜか。つまり、そうしなければ「偏向発言」と見なされるからだ。一種の雰囲気でもって言論を誘導してはいないと思わせながら、そういう流れをつくることは、私は高等戦術だと思っている。「表現の自由」を叫びつづけながら、そういう流れをつくるやり方は高等戦術という以外にない。

さて、本論にもどることにしよう。つまり、翻訳とか、通訳とかいう職業は、外国語のボキャビュラリーを置き換えればそれで済むのではないかという異論を唱える人もいるが、言葉そのものに含まれる深い意味もつかみとらなければならないである。

私はたとえ、ごく少数の跳ね上がりものがいたとしても、当時発生したことを伝えるには、どうしても「日本と関連のあるデモ」と訳したほうが実情に適合していると見ている。したがって、翻訳にしても、通訳にしても、あるいは外国向けのメディアの仕事にしても、しっかりしたバックグラウンドができていなければだめだと言いたいのである。

「チャイナネット」 2009年8月19日

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