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元駐日特派員林国本さんの眼  
世界経済危機を迎え撃つ中国

林国本

国際金融危機が波及してくる中で、中国政府はドカーンと巨額の資金を計上し、可及的迅速に各プロジェクトに資金を注入し、中国経済をさらにグレードアップするための実際行動が着々と進められている。農業、農村、農民と関連のあるプロジェクトや民生と関連のある事業にも、資金が投下されている。中国は十三億の人口を擁する大国で、数千年の歴史の中で万里の長城、大運河などを築造、掘削してきた。筆者は科学史を専門とする人間ではないが、国際交流の中で、いろんな国の人たちとのおつき合いの中で、中国人は大きな事業を何十年もかけて完成することを得意とするような気がする。しかし、いたらない点も目立つ。特派員で日本に長期滞在していた頃につくづく感じたことは、日本人は幕の内弁当文化みたいな、細かいことに非常に神経を使う傾向があり、中国からの訪問者が感心しているのをよく見かけた。だから、日本人のこうした長所と中国人の得意とするところを上手に結び付ければ、ものすごいものが生まれるのではないか、と考えたこともある。

今度のドカーンという巨額の資金投下も、そういう太っ腹なところの表れといえなくもないが、資金投下と同時に会計監査の仕事も同時進行的にすすめられることになっており、この中国式「ニューディール」政策で甘い汁を吸おうとするやからの出現を防ぐことも考えているようである。

一例をあげると、北京―上海間の高速鉄道の建設にも、巨額の資金が投下され、工事はかなりスピードアップし、かなりの新規雇用を作り出している。もちろん、時速三百六十キロという高速鉄道プロジェクトのことであるから、急ぐのもよいが、質の確保が至上の課題であることをつねに念頭に置いてもらいたい。ある意味では、これはアジアひいては世界で注目されているプロジェクトであり、質の面で、欠陥があれば、それこそ中国の欠点をほじくることを仕事としているような人たちには、願ってもないこととなろう。筆者はいろいろな日本のメディアに接しているが、かなり冷静に、事実に即して書いているものもあれば、それこそ「中国崩壊論」を十年間も書き続けているものもある。筆者はリタイアしたが、まだジャーナリズムの世界の一角で勉強している人間として、こういう「中国崩壊論」者の根気には、ニヤニヤしながら感心している。もちろん、この人たちはもうこのパターンから離れることは不可能と見ている。というのはフリーのライターである場合、そのメディアのカテゴリーとしている価値観のものを書かなくては、原稿は「偏向」というラベルを張られ、食べていけなくなるからだ。また、「表現の自由」とかいうものもあるので、書きたいことはどうぞ書いて下さい、という気持ちである。だいたい、ひとつの国が崩壊するかどうかは、外にいる人たちが大声をはり上げても、それひとつが原因で起こることではない。究極的にその国の為政者が本当に国民の福祉に力を入れているかどうかで、中国が本当に和諧社会を実現すれば、微動だにしなくなる。

国際金融危機の津波による輸出の減速などで一部企業が困難な状況に置かれているが、一時的失業者の職業訓練、ブランド力の向上、地域全体のグレードアップで乗り切ろうとしているし、帰郷した出稼ぎ労働者の地元での職業あっせん、生活補助措置などで一歩一歩とマイナスをプラスに切り換える努力が続けられている。

今年の正月は大中都市の住民消費もかなりいい線を行っているし、次の旧正月の住民消費も、さいきんの動きから見ると、まあまあ大丈夫と言えそう。

筆者の私見であるが、改革開放の次の30年は第三次産業にももう少し力を入れてはと思うのである。エントツのない産業といわれる観光業も、数千年の歴史のある国という強味を生かして、まだまだ掘り起こすマーケットがたくさんある。外国からの観光客も大事だが、国内の人たちのための観光業、例えば、日本でなが年おこなわれている修学旅行も、現在の中国人、とくに大、中都市の人たちにとっては巨大なマーケットである。父兄たちの積み立てに頼るとともに、家庭が困っている生徒にはそれなりの手当をおこなうことも考えられる。青年たちに違ったサブカルチュアに触れる機会をつくり、ゲーム浸りにならぬようにし、すこやかに成長してもらうことは中国の将来にもプラスとなる。

要するに、今回の金融危機も、見方を変えれば、グレードアップのチャンスに変えることができるのである。

「北京週報日本語版」 2009年1月21日

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