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元駐日特派員林国本さんの眼  
中国の外国語教育についての所感

              林国本

さいきん、2、3の大学から、実務の世界で数10年過してきて人間の一人として、翻訳、同時通訳の“秘訣”(そういうものがあるのかどうか、なが年それに近い世界でムダ飯を食べてきた筆者にとっても、モヤモヤとして定かではないが)について学生たちに話してくれないか、という招請があり、若者たちと対話することは、自分にとってもみずみずしい感性に触れることは大いにプラスになると思い、引き受けることにしたが、自分の実感としては今日の外国語教育は、英語を除いて旧態依然としているような感じがしないでもない。

要するに、市場ニーズそのものが筆者たちの若い頃にくらべてガラリと変わっているのに、いまだに、もとのやり方で外国語の教育を行っているということである。

ある外国語大学の学長クラスの人は、古典の勉強で学位を取ったにもかかわらず、グローバル化した世界の流れをちゃんとつかんで、まったく新しい思考で外国語教育に取り組んでいる。こういう学校で勉強した若者たちは社会に出てからも重宝がられ、引く手あまたの状態で、みんな生き生きとして頑張っている。

筆者たちが仕事についた頃は、外国語のできる人間は稀少価値に近い存在であった。よっぽどつむじまがりでないかぎり、肩で風を切って人生街道を歩むことができた。しかし、今は違う。新聞の広告を見てもわかるように「バイリンガルの幼稚園、園児を募集」というものがあちこちに出ている。そういう子供たちが中学、高校に入ると、もう自分たちでアメリカやイギリスの大学への留学を計画し、奨学金についてもなんとか手を打って、「風とともに去りぬ」とさっそうと国外へ飛び出していく。日本語を勉強した人たちの中にも、英語でも食べていけるような人がいる。あるメディアには、英語と日本語で記事を書いている「二刀流」といってもいい若者もいた。筆者は上司にこの若者をなんとかしてヘッドハンティングしてきては、と言ったことを覚えているが、処遇などの問題もあり、結局うまく行かなかった。その後、この若者はアメリカに留学した。

外国語大学には、外国で言語学、文学などを勉強して学位を取り、帰国して教壇に立っている人もいる。これもすばらしい人生コースだと思う。しかし、何万人という学生がすべてこのように塔のてっぺんまで登りつめることができるのか、というとこれはかなりむずかしいというほかない。天の時、地の利、人の和がすべてバランスよく、タイミングよくこの人に味方してくれなければむずかしい。教授のポストが空席にならなければ50代になってもヒラの講師、助教授というケースもないわけではない。そして、家庭を持ち、子供を育て、子供を留学させる、となると、その間のいろいろなリスクも考えなければならない。途中で方向転換をせざるを得なくなれば、まさにアブ、ハチ取らずの中途半端な人生となってしまいかねない。要するに大多数の人たちは、実務の世界に入っていくことになろう。よく外資系の会社に入って、背広姿で頑張っている若者の姿を身かける。これも人生のオプションのひとつ。エールを送りたい。しかし、外資系といっても聞こえはよいが、ほとんどの会社はグローバルなサバイバル・ゲームの中で生き残りを賭けてたたかっているのである。さいきんのリーマン・ブラザーズの破綻、アメリカのビッグスリーのなさけな姿を見ていると、ビジネスの世界はまさにジャングルの中で死闘が繰り広げられているところといってもよい。翻訳家になりたい、という夢を描いて社会に出て、あちこちでカベにぶつかっている人もいる。筆者は外資系の会社に入った以上、中国市場の開拓に努め、マーケティングの勉強をし、トップクラスの営業マンになる以外にない、とアドバイスしている。メディアの伝えるところによると、大学の教授のポストも安閑としては、助教授に落っこちたりすることになりかねないらしい。要するに、生涯勉強をしなければならない、ということだ。

中国も近代化がどんどん進み、筆者が定年まで頑張りつづけたメディアも、ガラリと様変わりし、若者たちが直接英語などで記事を書いている。マルチ人間を必要とする世の中なのである。

そういうことで、これからの外国語教育は、学術の塔のてっぺんに登る人材を養成することも必要だが、いろんなニーズに適応できる柔構造的人材の育成にも気を配らなければならない。つまり、いつでも「つぶしのきく」人間にならなければならないわけである。外資系にしても、本国の本社でのM&Aなども起こりうるし、駐在事務所の合併、移転もありうるし、まさに万物流転、諸行無常である。

そいうことで、これからの外国語教育は一部の塔のてっぺんに登りつめる人以外は、スキルの教育を重んじ、身軽にいろいろな変化に適応できるマルチ人間の育成に目を向けるべきである。

「北京週報日本語版」2008年12月26日

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