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元駐日特派員林国本さんの眼  
新たなサバイバル・ゲームの幕開けか

                林国本

さいきん、アメリカの自動車産業の死活にかかわることがメディアで伝えられている。ビッグスリーのトップたちが、「公的資金」らしきもので急場しのぎの協力をお願いする映像を見て、いわゆる「自由主義経済」もなさけないものだ、と思っている。大手企業だがら税金を使わせください、と言えるが、では世にあまたある中小企業はどうするのか。資金繰りに困って夜逃げしたり、自ら命を断つ中小企業の経営者もいる世の中である。

しかし、分からないことでもない。ビッグスリーがつぶれて、何百万という失業者が出たら、いわゆる「自由主義世界」の親分をもって自任しているアメリカはメンツ丸つぶれであり、世界にいくつかあるアメリカの子分をもって自任している国もあわてることだろう。したがって、どこかで妥協して、なんとかこの急場を乗り切る可能性もないわけではない。だが、賢明な評論家たちが指摘しているように、世界のマーケットを相手している各国の自動車メーカーのほとんどは、技術力、ブラントで勝負しているのであり、どこの国のクルマを買うかどうかはお客さんが決めることである。筆者はもう年齢的に見て、動作も反応もにぶくなっているので自分がクルマを買うことはないが、仮に買うとしたら、やはり高い油を浪費し、それほど乗り心地のよくない「アメ車」は敬遠することであろう。要するに、アメリカのビッグスリーは、もっと競争力のある、値段の点でもお客様に受け入れられるクルマを生産しなければ、湯水のように「公的資金」のようなものをつぎこんでもだめであることは誰の目にも明らかだ。

競争力のある日本の自動車メーカーでさえ生き残りを賭けて、カッコいいF1レースや世界ラリー選手権から撤収することを発表しているではないか。環境保全、省エネが「至上命令」となっている今日、新技術の開発に巨額の資金を投下し、リスクをとって必死にサバイバル・ゲームに社命を賭けなければならないことは、もう当然のこととなっている。

自動車と住宅はアメリカン・ライフスタイルの核といってもよいものである。その二つがおかしくなり、ぐらついているのである。日本の国際政治学者の著書には、「パックス・アメリカーナ」のシステムのぐらつきを指摘する人もいる。

日本の経済誌を見ていると、比較的悲観的な見解が増えているようだが、2年か3年ぐらいでアメリカ経済は立ち直るという見方もある。

中国もとんだとばっちりで、対米貿易の減速で、対米輸出に過度に依存し、商品のライフサイクスの衰退を先読みして高付加価値の製品に乗り換えることを怠った小企業の中では、あおりを食ったところもある。中国は全国をあげてこのアメリカ発の経済危機の大津波の被害を最小限に食い止めるために努力している。国外では大がかりな資金投下の「真水」はどれほどなのか、という論議もある。私見ではあるがすでに計画に取り上げられているものでも、1年、2年、繰り上げて完工させれば、次のプロジェクトに新たに取り組めるのだから、「真水」のようなものであり、将来への資金投下も必要不可欠である。さらには、民生への資金投下も忘れてはならない。内需の開拓も今の発想でよいと思うが、もっと既存の分野の内需の掘り起こしもおろそかにしてはならない。一例をあげると、国際経済の減速であおりを食っている観光業も、大中都市の学生の修学旅行(両親による積立金制度をつくるなど)、各地のスキー場とグルメ、アミューズメント業の組み合わせによる新しい観光市場、年金生活者たちの「大運河の船の旅」など掘り起こしさえすれば、「外の減速」を「内の加速」でカバーできる。そして、さいわい、発展途上国である中国の自動車市場はまだ買い手がたくさんいるので、それほど心配はないが、原油高、環境保全ということを考えると、公共交通システムの発展こそが進むべき道であろう。危機をチャンスに構造改革を、という言葉をよく耳にするが、たしかに今の困難を次なる発展の“糧”にすれば、改革、開放の次の30年にはさらなるグレードアもまったく可能である。

「北京週報日本語版」2008年12月24日

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