ゴボウはキク科の1、2年草で、果実は漢方薬として古くから使用されている。しかし、根の部分は、一般の家庭やレストランなどの食べ物としては利用されてこなかったのだろう。だから、中国語の漢字は昔から存在するが、食材としては普及しなかったのだと思う。日本には古くから漢方薬として中国から渡来したが、根っ子を根菜類として食用にしたのは江戸時代から明治にかけてである。
中国語の「牛蒡」の発音は「niubang」である。日本語の「ゴボウ」の発音とはまったく異なる。同じように、中国語の漢字をそのまま借用しながら、日本語の発音はまったく異なるものに、タンポポ(蒲公英pugongying)、コンニャク(魔芋moyu)、ミミズ(蚯蚓qiuyin)などいくらでもある。
「niubang」がなぜ「ゴボウ」の音になったのか。学名とも英名とも違う。中国の古い時代の発音にでも由来するのだろうか。中国の“不思議いっぱい”は次々にナゾがナゾを生む。
手作りのキンピラゴボウで手酌の杯も進む
擂り鉢ですったヤマイモをマグロにかければヤマカケになる
「擂り鉢」を日本からのお土産に
学生時代の友人5人が中国旅行に来ることになった。
「日本からのお土産は何がいいか」
「擂り鉢がほしいなあ」
「ええっ!あのゴマをするやつかい?」
「そうだ。中国語で“擂鉢(leibo)”という単語はあるんだが、こちらで、あちこち探しても擂り鉢がないんだよ」
学生時代からアイツは変わっていたから、そんなものをほしがるんだろう、と友人はこちらの要求を承諾してくれた。トランクに入れると割れる恐れがあるので、携帯品の手荷物として大きな擂り鉢を抱えながら持って来てくれた。こんなものを持って中国に来る人はまずいない。中国の税関でも不思議に思われたのではないか。
「税関で何か言われなかったかい?」
「別に何も言われなかった」と、友人は涼しい顔をしている。
中国ではほとんど見かけないので、税関職員は使用目的もはっきりしなかったのではないか。輸入禁止品目にも入っていないのでとくに問いたださなかったのかもしれない。
「擂り鉢は、内側に目を刻んだ土製の鉢。調理用具の一つで、すりこ木でこすってつぶす。あたりばち。」と、「大辞林」(三省堂)にある。「漢字源」(学研)には、「擂」の字の説明に「ごろごろと雷のような音をたて、または、重い力をかけてこすったりたたいたりすること」という。
土産に持って来てもらった擂り鉢は、ほうれん草のゴマ和えや、薄皮をむいたあとの里芋のぬめりをとるときなどに重宝している。ナガイモを擂り鉢の内側の刻みを利用してすりおろし、その後、すりこ木でするとなめらかな舌触りになる。これをマグロのぶつ切りにかければ「ヤマカケ」の出来上がりで、酒の肴にもってこいだ。このほか、ゆでたジャガイモを擂り鉢でつぶして作ったポテトサラダは、口当たりもよい。そのほか、枝豆の皮をむいてすりおろし、砂糖を加えて練ったものを白玉や餅に付ければ「ウグイス餅」(東北地方では「ずんだ餅」という)の出来上がりだ。
さまざまな料理を作るのに便利な擂り鉢だが、中国料理の種類が1万数千種以上あるのに、「擂鉢」という漢字があっても今の中国に「擂り鉢」がないのは、やはり不思議だ。
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