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元駐日特派員林国本さんの眼  
プロも初心者のミス

前世紀30年代のアメリカの経済恐慌は、筆者にとっては書籍を通してしかそのおおよそのイメージをつかむことができないが、到底予想していなかったことだが、とうとうそれに近いことが起こり、当初、ヨーロッパの一部のトップは、納税者のおカネでバンカーを救済するのはもってのほか、と高を括っていたが、その舌の根の乾かぬうちに、足元の銀行の経営がおかしくなり、夜中に会議を開いて、公的資金の投入を決定した。中国は世界経済の動きを冷厳な眼で見ており、津波の被害を最低限に抑え込むため、いろいろと手を打っている。改革・開放30年の成果を守り抜き、さらなる発展をかちとろうとする決意がそこにうかがわれる。

筆者が特派員として東京に長期駐在していた頃は、バブル経済の絶頂期で、日本の企業がアメリカの不動産を買い取り、「アメリカ全土」さえ買い取りかねない鼻息であった。その後、バブルが弾じけ、銀行、証券会社がつぶれ、北京に駐在していた日本の銀行の人たちも、銀行の統合、合併で姿を消してしまったが、他の会社の駐在代表として「Uターン」してきた人もいる。筆者たちがよく知っていた、非常に覚えやすい銀行名も消えてなくなり、舌を咬みそうな長ったらしい行名に変わってしまったものもある。

こうした経済の動きを見ていて、これからはジャーナリストとして暮らしていくには、これまでのいわゆるゼネラリスト・タイプではダメで、経済とか金融の知識も身につけておかないと「リストラ」されかねないのでは、という危機意識から金融の本などを買い集めては、一夜漬けのような勉強を始めた。生来、凝り性なのかついにはスワップとか、オプションとか、「株の知識」という「ドロナワ式」の勉強をつづけることになった。特派員の任期を終えて帰国する際には、おかげさまに書籍を詰めるダンボールがかなり増えていたことを今でも覚えている。これはその後、たいへん役に立って、いまでも自分の偶然の「決断」は正しかった、と喜んでいる。さいきん、筆者がなが年勤務していたメディアでは、若手に「財政、経済知識」の特訓を行っているのを目にして、自分が特派員時代に一時のひらめきでおこなったオプションの正しさに満足している。

こうした蓄積をベースに、現在の国際経済の動きを見ていると、どうも金融経済のプロの中のプロといえる人たちも、初歩的なミスを犯していたようだ。「株式の知識」の本に、「タマゴ」はひとつのカゴに全部入れるな、という名句がある。つまり、リスクのヘッジを常に念頭に、ということである。ところが、破綻してしまったリーマン・ブラザーズなどのプロたちはどうもタマゴをひとつのカゴにほとんど入れて一攫千金の夢を見ていたらしい。まさに初心者のミスである。しかし、つきつめて考えれば、これはプロとか、初心者とかいうレベルの話ではなく、根本は人間の“業”というものに行き着く。サブプライム・ローンがまさかごけついて、百数十年の歴史のある証券会社がつぶれてしまうとは思ってもいなかったにちがいない。いや、これで大儲けすれば、証券大手四位から三位になれるのではないかという夢を描いていなかったともいえないのではないか。

デリバティブの本を見ても、とにかくリスクについては、これでもかこれでもかと書かれている。それでも、こうして破綻していくケースがいつも見られるのは、結局、マネーゲームというものは勝者もいれば敗者もいる、という一言に尽きる。アメリカは金融工学関連の学者が多数輩出している国である。日本のような百数10年も前から市場経済に組み込まれている国でも一部のデリバティブ商品を解禁していない。ギャンブル的性格がある、という理由からだ。

しかし、インセンチブとか、モチベーションとかいうレベルの話になると、やはり市場経済しかない。そういうことだから、リーマン・ブラザーズのようなケースはこれからも現われるにちがいない。でも、その都度預金者、納税者がひどい目にあうのは、どうもいわゆる「自由主義経済」の錦の御旗にマッチしないのではないか。ちゃんとしたルールづくりが必要な段階に来ているのではないか。

「北京週報日本語版」2008年10月14日

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