林国本
さいきん、中国のメディアでは、北京オリンピックと北京パラリンピックの諸施設の再利用が議論されている。周知のとおり、オリンピック誘致が決まり、企画・立案が始まった段階からすでにそのことが一項目として組み込まれてきた。国際化、対外開放の中で、諸外国の実例もいろいろ参考にし、かなり綿密に検討されてきた。
青島のヨット競技施設を見たことがあるが、選手村のメーンの部分は、閉幕後すぐ五つ星ホテルに変身する仕組みになっていた。海辺にあるという立地、ロケーションは最高の条件で、それこそ地中海のリゾート地と同じようなウルトラ級の物件である。その他の建物もマンションとして売却されることになっており、今の右肩上がりの中国経済の状況のもとでは、飛ぶように売れることはまちがいない。たとえ国際経済の不確実性やら原油高、資源高やらで、少しペースダウンしても心配はない。
足元北京でも、大学につくられた施設などは、そのまま大学の施設に変身することになっている。市民が利用できる施設になるものもある。ウルトラ級の鳥の巣ともいわれるメーンスタジアムは、一寸難しいと思っていたが、世の中には私よりも賢明な人が多数いるもので、もうビッグイベントの招致、屋内部分のショッピングモール化とかいろいろなアイデアが提案されている。「水立方」は一大レジャー施設になるらしい。アクセスも便利だし、やがてはヤングたちのデート・スポットになることであろう。築ウン十年の減価償却を上手にやれば、サンク・コストの回収は問題ないと思う。とはいうもののオリンピックというビッグ・イベントのあとでは、何10万というボランティアもいなくなるので、環境保全、メンテナンスはたいへんだと思う。また、ショッピング・モールといっても、どのような収入層をターゲットにするのか、ということも、マーケティングの大課題である。
要するに王府井とか、西単とかいう商圏の客足を一部引っぱってくることが必要なのだから、なにを目玉とするか、マーケット・セグメンテーションはどういうものにするか、これも喫緊の課題である。北京のあるショッピング・モールのことであるが、定年退職者の大勢住んでいるエリアに、ルイ・ビトンとか、エルメスの商品を扱った店をずらりと並べたはいいが、いつも閑古鳥が鳴いているありさま。一年後にもう少し低く目のセグメンテーションに設定しなおしたところ、大繁盛しだした。商圏におけるロケーションの間違いから数年間空室のビルになっているところもある。オリンピックによる盛り上がりを次につなげていくことは、マーケティングの一大課題であろう。いい勉強になるにちがいない。
ロンドンは三回目のオリンピック誘致となるということだ。私見であるが、かつてパックス・アングリカーナで鳴らした老大国のこと、またユニークなオリンピックを見せてくれることであろう。古い話になるが、第二次世界大戦の頃、ナチス・ドイツの空爆に対処するため、オペレーション・リサーチの手法を応用してナチス空軍を悩ませた、という話を雑誌で見たことがあるし、ビッグバンなどのシティをよみがえさせる奇手を使うイギリス人のこと、またアッといわせる面白いアイデアを生み出すことになるかもしれない。
中国の百年らいの夢を現実にしたと喜ぶのもいいが、さらに国の近代化を進めて、いつの日にか二度目のオリンピックを誘致することも夢ではないのだから、長い目で取り組むことである。次の30年を上手に乗り越えれば、そんなことは夢のうちに入らないかもしれない。
「北京週報日本語版」2008年9月4日 |