清水 由実
夏といえばスイカ、アイスクリームというのは世界共通の典型的な夏の風物詩だろう。だが、アイスクリームはともかく、おいしいスイカにめぐり合うのはなかなか難しい。甘くても熟れすぎてベチャッとして歯ごたえがなかったり、シャリシャリと口当たりはよくても甘みが足りなかったりして、なかなか「ウン、これだ!」と納得し、満足できるスイカにはめぐり合えない。
だが、寧夏回族自治区南部の都市、中衛市で収穫されたスイカは一味も二味も違う。とにかく甘い。そして硬過ぎず、柔らか過ぎず口の中で心地よい音を立てるその食感のよさ。多過ぎず、少な過ぎず、すっきりとノドを潤してくれる、ほど良い水分量。そのどれをとっても抜群のスイカだ。実際に沙漠で食べた味を思い出すとヨダレが出てくるほど、と言ってもいい。そのスイカが五輪向けに提供されるという。
甘くてサクサク、「圧砂瓜・硒砂瓜」スイカとは?
寧夏回族自治区は中国西北部の黄河上流域に位置する人口610万人余りの地区。人口の35.76%を回族が占める自治区だ。西、北、東の三方をそれぞれテンゲル(騰格里)沙漠、ウランブハ(烏蘭布和)沙漠、モウス(毛烏素)沙漠に囲まれ、自治区全体の23%近くの土地が沙漠化しているという生態環境の深刻な地域だ。
そのため、自治区政府と各市政府は生態系の保護と地場産業の育成に力を入れているが、その中で生まれたのが中衛市のスイカ「硒砂瓜(シーシャーグァ)」だ。
半砂漠地で栽培されるスイカ「圧砂瓜」
「圧砂瓜・硒砂瓜」(ヤーシャーグァ・シーシャーグァ)は平均海抜1760メートル、年間降水量が180ミリ足らずという中衛市南部の山間地区の半砂地で栽培されているスイカだ。砂地に小石を敷き詰めることで、保水や保湿、保温などの効果をあげるとともに、水や風の浸食を防ぎ、砂が巻き上がるのを防いでスイカの種をまく。最近はこれに加えて、種をまいたうえにビニールをかぶせて水分蒸発を防ぐという農民が自ら考案した方法がとられている。「圧砂」とは「砂を押さえつける、圧する」といった意味だ。
95年からこの方法を普及させ、敷き詰める小石は近くの山あいから運んでくるが、このうちの一部にセレン(中国語で「硒」)が含まれていて、これが雨水に洗い流されて土壌に滲み込み、スイカに吸収される。セレンは体内で過酸化脂質を分解する抗酸化酵素の主成分で、ガンや老化を防止する抗酸化作用があると言われるミネラルだ。一般的にはかつお、イワシなどの魚介類や動物の内臓、小麦胚芽、玄米などに多く含まれており、これが欠乏すると不整脈や動脈硬化、筋力の低下、心筋障害などを招くことがあり、また過剰に摂取すると消化機能の低下や抜け毛などの症状を招くことがあると言われる。「日本人の食事摂取基準」(2005年版)で設定された1日の推奨量は成人男性で30~35マイクログラム、成人女性で25マイクログラム、上限量は男性が450、女性が350マイクログラムだ。
農業部の測定検査報告によると、中衛市のブランド品である「中衛香山硒砂瓜」には1kgあたり0.0056mg(5.6マイクログラム)のセレンが含まれているという。
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