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元駐日特派員林国本さんの眼  
対岸の火事ではない日本の休漁

                         林 国本

NHKの国際ニュースによると、日本全国の漁業関係者が、重油価格の高騰で、遠洋での漁労を一時停止することになったらしい。東京の築地では今後、新鮮な魚の入荷に大きくひびくのではないか、と懸念を示す業者もいる。日本人の生活は魚と切り離しては考えられない。ドミノ理論で想定すれば、日本の一般市民の食卓の献立にもかなりの影響が及ぶことになろう。しかし、このことは決して対岸の火事ではない。中国もアフリカあたりまで遠洋漁労のために漁船団を出しているし、近年、中国の遠洋漁業の発展はめざましいものがある。北京市民の食生活にも大きな変化が起こっており、要するに、いろんな食材が手に入るように、北京や上海などでは日本料理のお店、フランス料理のお店、イタリア料理のお店と、世界各国のグルメを賞味することができる時代である。

とはいうももの、このところのグローバルな範囲で広がる原油高、食糧価格の高騰は、徐々にではあるが、じわりじわりと中国にもその影響が押し寄せてきている。

さいきん、知人はクルマを小型車に換えた。ガソリン代の節約のためだ。また、一時期、低所得層の人たちの間では食糧品の価格の高騰が話題になっていた。ラッキーなことに中国はかつてのアジア通貨危機を無傷に近い形で乗り越え、今回も食糧問題で不安にさらされることはなかった。しかし、メディアのトーンの変化を見ていると、今回の世界的な原油高、食糧価格の高騰を決して対岸の火事視していないことが感じ取れる。テレビのキャスターの表情、口調からも、今年の夏の取り入れが豊作であったことを喜ぶ気持ちが感じられる。そして、次の秋の豊作も頑張ろう、という調子なのである。また、中国の全国科学賞の授与で、米の新種の育種で成果を上げた学者が表彰されており、その学者に対するテレビ・インタビューが放映されていることからも、食糧問題にいかに注目しているかが読み取れる。 

新中国の建国の歴史をふりかえってみても明らかなように、新中国は中国の国民に十分な食糧を保障したことが、大多数の国民の信認を得た要因のひとつである。この信認が揺るがぬようにしなければならない。世の中には「平和ボケ」という言葉がある。改革・開放30年代の成功で、生活水準も向上し、大都市ではほとんど東京と区別がつかないほどの発展が見られ、町にはスターバックスのお店あり、ルイビトン、エルメスのお店ありであるが、中国はまだまだ発展途上国であることを忘れてはならない。開発区をつくり、外国のビジネスマンたちのためのレジャー環境の整備のため、農地をつぶしてゴルフ場をどんどんつくることも必要かもしれないが、限界点をきちんと見ておく必要がある。かつてレスター・ブラウンという学者が「13億の中国人を養うのは誰か」と言ったように、13億の人口を擁する国が世界に向けて、食糧の供与を願うようなことが万が一起これば、それこそたいへんなことである。人口一千万足らずの国が食糧の供与を願い出ても、いろいろ譲歩を迫られているケースは少なくない。

私見ではあるが、省エネによる持続可能な発展を確保し、食糧は自給自足であるばかりか、他国にもいくらか援助できるようになってこそ、本当の意味での責任ある大国となれるのではないだろうか。食糧の安全という点からは国として食糧生産・備蓄基地の建設を考えてもいい時期にきているような気がする。アメリカは科学、テクノロジーの面で世界一といってもよい国であるととも、大規模農業、畜産業をもつ国でもある。こういう面で大いに見習うべきものがあるのではないか。

「北京週報日本語版」2008年7月22日

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