林国本
さいきん、中国の産業分野から次々と朗報が伝わっている。数値制御(NC)工作機械の国産化と自主開発、鍛造設備の開発、製造で世界先進国の仲間入りをしたことなどがそれで、これまで西側諸国はいろいろな思惑から中国の国力増強につながる技術は中国に提供してくれなかった。それはそうであろう。国力が増強すれば、中国にプレッシャーをかけることがむずかしくなるからだ。
筆者が特派員として日本に長期滞在していた時のことであるが、ある小企業を取材した際、あるIT設備の前にさしかかると、突然、係の人が冷たい顔をしてその設備の撮影はご遠慮ください、と言った。当時はココムとかいうものがあって、中国のような国から来たジャーナリストは、“要注意人物”であったのかも知れない。筆者は非常に不快感を覚えたが、「今に中国も国力を増強してお前たちを見返してやる」と心の中で思いながら、エチケット上それに従った。その後、休暇で北京に帰り、中国の著名な工科大出身の友人を交えて食事をした際、「中国のエンジニアたちも、もうすこし頑張らなくちゃだめだよ」と言って、この時とことを話すと、中国ではココムをつくり出した大国からすでにこの技術を導入しており、もうほとんど常識になっている、ということだった。日本がココムをつくり出した国の物言いを恐れて、それを守る優等生になろうとして頑張っている姿を思い起こしておかしくなったのを今でも覚えている。
そして、ケータイとか、家電製品なども、コアとなる技術を外国に押えられているので、中国の消費者は高価なものを買わされているという話も、専門家の口から耳にしたことがある。とくにスーパー・コンピューターなどは、はっきり軍事目的に利用される懸念があるとか言われて、全然導入を認められなかった時期もあった。土性骨のある中国の科学者たちがそういう技術封鎖をはね返して次々とスーパーコンピューターの開発に成功し、気象観測、地震観測の精度をますます高め、有人宇宙飛行の軌道計算、ロケットの姿勢転換も衆人環視の中でやってのけた。しかも、数多くの30代の若い科学者たちが先輩たちの指導のもとでそれをやってのけたのである。
科学的発展の唱道のもとで、中国は急速に発展をとげている。独自の知的所有権というものは、国の死活を制するものと言っても過言ではない。改革・開放の次の30年は発展のパターンの転換でさらにグレードアップすることが求められている。今世紀の中期ごろに、中程度の発展レベルの国となる可能性にも触れられている。その時になれば、もう発展途上国への配慮とかいうことも言われなくなり、それなりの責任を負わされることになる。
さいきんの環境問題への取り組みようを見ていると、そういう動きも見てとれる。技術的に遅れた火力発電所の爆破作業のナマ中継がときどきテレビで流がされているが、大気の質の改善、省エネに力を入れていることがそこからうかがえる。北京の首都鉄鋼所も唐山の埋め立て地に移され、循環型の大企業として再生している。こういう動きはすべて北京の大気の質の改善につながる有力な措置であるといえる。唐山の埋め立て地への移転とはいうが、これはたいへんなことである。北京市内に家族、子供のいる従業員はどうするのか、鉄鋼所の新規生産のためには中堅を唐山へ連れて行く必要がある。定年に近づいている人たちの取り扱い、高齢化した家族のいる従業員、まさにキメ細かな仕事をしなければならない。
あれや、これやを考えると、一歩、一歩着実な前進が不可欠であることはいうまでもない。そして、それがもう可能であるといえる段階に来ていることもたしかだ。さいきん、起こったゴタゴタに対する国民のゆうゆうとした態度もその自信を表わすものである。
「北京週報日本語版」2008年5月8日 |