西暦7世紀いらい、仏教はその発祥の地のインドで次第に衰退したが、チベットに伝わった後に急速に根をおろすことになった。仏の教えを分かりやすく伝え、トバンの信者たちを引きつけるため、早期の仏教の高僧は原始ベン教が信仰している土着の神霊を仏教の護法神とし、そしてベン教の祈祷師の祭祀儀式のきまりごとを仏教の法会に取り入れ、ベン教の多くの内容は仏教に受け継がれて来るとともに、仏教に濃厚な地方色と民族色を染み込ませた。そのため、チベットでは独特なチベット仏教が形成された。チベット仏教はその実、チベットにおける仏教の現地化した宗教形態である。
チベット社会の伝統では、人々は万物に魂があることを信じ、神霊のないところと時間はなく、空、地上、水中という3つの世界にはすべて神がいて、高い山、河川、岩石、樹木などにすべて神霊が住んでいると考えている。言い伝えによると、「ネン」といわれる神霊は常に高原の牧草地帯をさまよっており、それは雪、雹(ひょう)などの自然災害を象徴し、同時にまた至るとこるに急性伝染病をもたらしていた。怒りやすい神霊であるため、人々はそれをたいへん畏敬していた。毎年の春夏の変わり目になると、牧畜民の信者はお金を集めて神さまを祭り、テント、家屋の上に仏教の幡をかかげ、道の交差点で桑(くわの葉)や線香に火をつけ、ハダカムギの酒やツァンパを撒き、それによってこの怒らせてはならない神霊の歓心を買った。同時に、また大金で寺院の「アネンラマ僧」を招いて法会を行わなければならなかった。「アネンラマ僧」は神さまと人間をつなぐもので、呪文と魔法で「ネンの神様」と交流し、神霊が牧場を訪れて災害を取り除き、人々と家畜の平安と繁栄を守るよう求めた。
映像は1956年の冬にナッチュに発生したことの場面を記録したもの――強い朝日が海抜4700メートルのチャンタンの大地を照らし、ショドン寺の「アネンラマ僧」は、頭の上に法冠をかぶり、身に袈裟をまとい、手に法器をもって、呪文を唱えながら、煙霧が細長く立ち上る神壇に向かって進み、「ネンの神様」が来年は雹や大雪を降らさず、草原の人々と家畜の平安……を守ってくださるよう求めた。(写真・陳宗烈) |