昔、チベットのガシャ(地方政府)が重要な事にぶつかるたびに、往々にして神のお告げを聴取するものであった。大小さまざまな祈祷師の中で、ネチュン祈祷師は特殊な地位を占めていた。彼は清王朝が指定した7700人の僧侶を擁するレプン寺の予言者で、その上ダライラマとガシャの首席祈祷師でもあり、官階は三級で、大ラマと尊称されていた。数百年来、神秘的な雪のつもった高原に人々を驚かせる出来事がたくさん起こり、例えば何人かのダライラマの魂の生まれ変わり、何人かの摂政者の微妙な政治的生涯はほとんどすべてネチュン祈祷師の神様が乗り移ったことと関係がある。高官高位の人たちが彼の前で恭しくかしこまるばかりでなく、「全知全能」の「観世音菩薩の化身」、「雪のつもった高原の神の王様」といわれるダライラマ本人までも、難問あるいは戸惑いがあると、ネチュン祈祷師を招いて神様を乗り移らせ、神様のお告げを仰ぎ、決断を行うのであった。ネチュン祈祷師は、彼が何よりも勇猛なバイハル神の王様の代弁者であるばかりでなく、北方の護法神の王様のチリェジェポ、西方の護法神の王様の重臣のドジェチャムディェンの意志を表わすことをも兼ねることができ、彼が神様を乗り移らせた時に言い出す「神様のお告げ」が不可抗力の権威性を持つものであると自称した。ネチュン祈祷師が神様を乗り移らせた時に、武将の着る金のよろいの長衣をまとい、胸に心臓を守る銅製の鏡をつけ、まるで古代の威風堂々とした将軍のようであった。その左右の両側にそれぞれ世話する「ゴンボ」(助手)1人がいて、後ろにはまた多数の奴僕がついていた。彼がよろめいて神堂から出る時、数百人を数える僧侶がチャルメラと法事用のラッパを吹奏し、太鼓とシンバルを打ち鳴らし、大声で読経し、その音は耳をつんざくようで、線香の煙をあちこちで目にした。「ゴンボ」は直ちに彼に豪華で重い(聞くところによると30キロもある)金の兜をかぶせ、そして兜の帯をしっかりとそのあごに締め、祈祷師は瞬間に顔が赤くなり、呼吸が短くなり、全身がぶるぶる震え、口から白い泡を吐き、しどろもどろに「神様のお告げ」を述べ始める。クライマックスに達した時、彼はむやみに跳びはね、あちこちをむやみに打ったり切ったりし、彼の体の中に神様の魂が付着しているようであった。神様のお告げを伝え終わると、すぐぐにゃぐにゃになって地べたに倒れる。「ゴンボ」は急いで前に出てそれを支え、兜の帯を解き、大急ぎでマッサージし、通常の人間の状態に回復させる。
写真は1958年の秋に、ネチュン祈祷師が「神様のお告げ」を伝えるのを聞く14世ダライラマ(左の背影)。(写真・陳宗烈)