林国本
中国でも、日本でもかなりよく知られている中国中央テレビのキャスター白岩松さんが、日本取材の体験をまとめた著書『この眼で見た日本』を贈ってくれた。丁寧にもサインまで書き入れてくれた。
筆者は中国のジャーナリストの書いた日本取材記のようなものを読む際には、二つの姿勢でかまえて読むことにしている。ひとつは、若い頃から日本語を学び、日本に長期滞在した経験のある人たちのものを読むときのスタンス、いまひとつは日本語を専門として勉強したこともなく、日本に長期滞在したこともない人たちのものを読むときのスタンスである。この二種類の人たちには確かに違った視角がある。白さんの場合は、第二のケースである。そのためか、白さんの書いたものは十三億の中国人のほとんどが日本に行ったことがない中国では、非常に新鮮感がある。筆者のようになが年、日本と関連のある分野で暮らしてきたものにとっては、なるほど、こういう見方もあるのか、と感じるところもかなりあった。
白さんは、台湾にも取材に行ったことがあり、その縦横無尽の取材活動で新しい取材様式を開拓してきた。今回の日本取材も、中国の国際報道分野にとっては新たな展開と言ってもよいし、中国の視聴者に生まの日本の姿を提示してみせた大胆な試みだと言えなくもない。
白さんの本は、日本のいろいろな分野のことを取り上げているが、そのすべてに触れるスペースも時間もないので、ここでは、日本の若者のライフスタイルについてふれている一節について、寸評をしてみたいと思う。白さんをはじめとする取材班は、原宿や渋谷にも足を運び、日本の若者のファッションについて報道している。筆者も特派員として日本に長期滞在し、また、その後も時々日本を訪問しているが、やはり、ジェネレーションのギャップというか、過去からの蓄積が陳腐化し重荷となっているというか、筆者が関心を持つことがほとんどないような分野を視野にとらえている。
白さんがある日、「日本に来るたびに、中国とそんなに変わらない国になっているように感じるんだが」という言葉だ。つまり、中国もどんどん近代化していることを意味しているのだろう。しかし、中国のITの専門家は筆者にこう言った。「とんでもない。成田の東京国際空港のインフラを見ても、中国はまだ二十年は遅れているよ」と。この二人の言っていることは、どちらも正しいと思うが、ヤングの世界の話になると、中国と日本の違いは、ほとんどなくなっているように見える。筆者も時には家族サービスでカラオケなどに顔を出しているが、六本木にあるカラオケホール並みの場所が中国のほとんどの場所にある。悲しいかな、リクエスト曲から見ると、筆者は、自分が地球から消え去った恐竜のように感じるのである。感性の違いは、どうしようもないことだ。ムリして「ラブミー・テンダー」などをリクエストしても、今の若者たちは、古い、古いというのである。
白さんは、ステータス・シンボルを表わすような銀座の高価なファッションにもふれているし、また、それ以上のスペースをさいて原宿などのファッションにもふれている。取材班の一人が北京のヤングに電話して、原宿、表参道のファッションについてたずねてみたところ、「そんなことも知らないの。常識じゃないの」という返事がハネ返ってきたらしい。
筆者は、最近、いろんな面でいまの若者文化とのカルチャー・ショックを感じている。そして、一介のジャーナリストとして、また、かなり「進んでいる」、という「虚像」かもしれないものに包まれている自分をさらにリニューアルするためにも、白さんの本をじっくり読み、これからも時代に追いついていくつもりである。 |