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元駐日特派員林国本さんの眼  
三十年の歩みをふりかえって

 

                                        林国本

中国も改革・開放30周年というの節目の年を迎えることになった。筆者の住んでいる団地では、20年前、30年前頃は、自転車置き場が何カ所もあった。当時はカッコいい外国製の自転車を持っている人は団地では、現在ではベンツとかBMWとかの車を持っている人のようにうらやましがられていた。そして、当時、国内でトップクラスのブランドと見られていた天津製の「飛鴿」(ピジョン)ブランドとか、「永久」ブランドの自転車を持っている人も、一ランク下ではあるが、やはりうらやましがられる存在であった。非ブランド品の自転車なんか見向きもされなかったし、持ち主も頭が上がらなかった。それがである。30年経た今日、団地はマイカーが所狭しと並び、中年や高齢の住民たちが、バドミントンを楽しんだり、太極拳を楽しんだりするスペースさえ見つけにくくなっている。しかし、これは中国の高度成長を如実に物語るものと言っても過言ではないので、喜ぶべきことである。そして、昨今は車を持っている人たちの間でも、車のランク付けを暗黙のうちに行っているようで、知人の子供たちは、就職したばかりの頃は中レベルの車で我慢していたが、すこしサイフがふくらむようになると、ワンランク上の車に買え替えている。高級車を持っている人は、鼻高々のように見える。ステータス・シンボルというものかもしれない。なかには、よっぽと大金持ちの彼氏がいるのか、スポーツ車を乗り回している女性の姿も見かける。しかし、一般の人たちの生活からあまりにもかけ離れた車を乗り回していた人たちのごくごく少数は、結局、塀の中の人になってしまったというケースもある。見栄をはりすぎると、どこかで歯車が狂い出すのだろう。こうした社会や、人びとのライフスタイルの変化から、色々なことが見て取れる。筆者の子供の同窓の中には、SUVを乗り回して、友人たちとチベットへドライブの旅に出かけたりしている人もいるし、SUVとSUVの間で、走りながらウォーキー・トーキーで会話をしながら楽しんでいる人もいる。ライフスタイルの変化は、価値観の変化をももたらすことになり、中国でも「代溝」という言葉がよく使われるようになっている。世代間の溝(みぞ)、つまり、ゼネレーション・キャップのことである。さいわいに、筆者はジャーナリズムの分野の一角で今だにセカンド・ライフ、サードライフを楽しんでいるため、ある側面では今の若者たちよりも、前衛的な視角や知識構造を持っている、と若者たちに言われているが(お世辞か、リップ・サービスかもしれないが)、しかし、ある側面ではかなり遅れていることも、自分でよく知っている。二、三の例をあげると、古女房とよく本屋めぐり(これは筆者が頑固なまでにこだわりつづけている趣味)と、ショッピング(これは古女房のたのしみ)のあと、スターバックスのコーヒーショップで落ち合い、外食をたのしんでいるが、スターバックスは場所が分かりやすい、ということだけで、ファッション性とかいうものは全然感じることはない。また、ピザとか、ケンタッキーフライドチキンとか言うものも、なが年の味覚神経が全然受けつけないので、若者たちにダサイと言われている従来の中華料理で済ませている。とはいうものの、ほとんどの場合、筆者は若者たちのライフスタイルをできるだけ尊重し、理解することにしている。さもなければ、消え去った恐竜のようになってしまう。

かつて、偉人毛沢東が言ったように、若者たちは午前八時の太陽だ、そして、われれれはおそらく午後五時の夕日だ。未来は若者たちのものだ、という名言と自分のロマンを重ね合わせて、ずっとジャーナリズムの道を歩んできたし、これからも歩み続けるつもりである。少なくとも、自分のアイデンティティの構造の半分以上は必ず若者と同時進行的に変化しつつけなければならないと思っている。中国はまだまだ前進しつづける。筆者も必ず前進しつづける。それをたのしみにしている。

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