林国本
さいきん、メディアで山東省のある人が山東半島の一番地勢的に適切と思われる区間に、北から南へと運河を掘削してはどうか、というアイデアを公表した。ならべている理由を見ると、いいことずくめである。山東省は高速道路もたくさんできて省内の交通も便利。そのうえ、工業、農業、漁業も発達し、そのうえ、青島、煙台という良港にも恵まれ、北東アジアのハブ空港にもなれそうな青島空港もある。要するに、地理的になかり恵まれた省である。しかし、いいことずくめでもなさそうである。
アイデアの北側の住民であるこの人物は渤海湾の北側の付け根あたりの小さな港から、長い山東半島を遠回りして南側の付け根あたりまで向うには、かなりの時間がかかるから、いっそのこと北から南へと運河を掘削してはどうか、というのである。さらに、経済の飛躍的な発展で、渤海湾も汚染が避けられなくなりそうだから、この運河ができれば、南の黄海の水が交ざって、汚染がさらに薄められる、というのである。これは黄海の沿岸にある中国の江蘇省の漁民、塩田業者、ノリ養殖、ウナギ養殖などの業者にとって聞き捨てにできないことである。
もちろん、渤海湾でも、いろいろな環境対策がとられており、江蘇省沿岸への汚染の垂れ流しとはなりえないが、渤海湾一帯は中国の次の沿海産業ベルト地帯として、石油精製業、鉄鋼業、造船業が次々と姿を現わし、海底油田、海底天然ガス田も発見されており、やがては大産業ベルト地帯が現れれる、とはまちがいない。環境対策が同時進行的に実施されれば、まあまあ、安心できようが、実情はどうか。先般、渤海湾の小さな漁村で魚がとれなくなって、漁船を売り飛ばして、お隣りの河北省に出稼ぎに行っている人たちのことを伝えるテレビの番組を見た。かつてのにぎわいも過去の出来事となり、コーヒー色の水のたまった河口の映像がいまでも脳裏に残っている。
中国の近代化のためには、しなければならないことはまだたくさんある。農業の近代化だけをとっても、たいへんな事業である。外航船の航行ルートなら、今のままでもやっていけるのではないか。急がば回れである。運河云々も、南側の江蘇省の人民代表大会、政協、学識経験者の意見を十分聞いたうえで、ゴーサインを出すべきだ、と思うがどうか。大自然は一度形を変えてしまえば、もう元には戻りえないのである。すでにこうした教訓がたくさんある。筆者は地縁、血縁、「人脈」のいずれも江蘇省とは無関係なので、以上は環境保全という視点からのアドバイス以外のなにものでもない。
「北京週報日本語版」2008年1月10日 |