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井戸を掘る人々
──中国で、日本で、暮らして
 
心を通わせ、新世紀の言葉を紡ぐ

 

折しも日本はバブル経済のまっただ中。空前の円高の恩恵にあずかって、大学生でもアルバイトをすれば休暇を利用して海外旅行に行けるようになり、『地球の歩き方』が爆発的に売れるような世相でした。フランスのベルサイユ宮殿やユーロレールの中で同級生同士がバッタリ会ったとか、欧米が隣近所にでもなったかのような実話がしばしば飛び交っていました。私も友人とともに二度ヨーロッパに出かけます。あれほど憧れていた欧州でしたが、行ってみるとなんだか額のなかの美しい絵画を鑑賞しているよう。もっと心の底から共感を得られる世界が別にあるような気がし、おきまりの観光ルートからそれて、アジアへUターンします。二十歳前後の私は、外国を見て歩きながら自分探しをしていたのかもしれません。

社内旅行の際、海南島の三亜にて

そんな頃、中国では鄧小平氏の南巡講話が発表され、社会主義市場経済政策が打ち出され、なにやら私の周囲も物騒がしくなってきました。ビジネスチャンスを得た友人や学術交流を通じて中国に知己を得た先生らの熱弁をくり返し聞くにつけ、次第に心が動かされ、ぜひこの目で確かめてみたいと思うようになりました。

1994年、知人の企画した中国の古都や経済特区を巡るツアーに参加、実に15番目に訪れた、日本に最も近い外国に魅了されることになります。上海、四川、広西、海南島、北京と横断し、旅先で大陸の大らかさに触れ、通常のものさしでは測りきれないスケールに圧倒されるとともに、物質的にはそう豊かでなくとも、瞳に強い光を宿す中国の人々の姿がとても印象的でした。数年前に立ち寄った東欧の社会主義国はだれもがうつろで、下を向いて歩き、息詰まる閉塞感を覚えたこととは対照的でした。帰国してさっそく中国語の語学学校探しに奔走。遠回りした挙げ句、私は二十代半ばにしてはじめて中国語という自ら求めて勉強したいと思う言語に出会ったのでした。

心温まる留学の思い出

しばらくたって、語学研修と研究の資料収集を兼ねた短期留学をすることにしました。すると、受け入れ先の北京師範大学外国教育研究所(現国際与比較教育研究所)が外国人に対し大学院の門戸を開くというタイミングに居合わせ、研究所の先生が博士課程の受験を勧めてくださいました。中国の大学院で学ぶ外国人はまだきわめて稀(まれ)とはいえ、条件さえ整えば、中国の研究機関で腰を落ち着けて学究生活を送る日々は魅力的に感じられました。一念発起して受験に臨むことにします。

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