四、経済建設と経済体制改革
いくらかゆとりのある社会を全面的に建設するにあたってもっとも根本的なのは、経済建設を中心とすることを堅持し、社会生産力をたえず解放し、発展させることである。世界の経済と科学技術発展の新たな趨勢とわが国の経済発展の新たな段階の要請にもとづき、今世紀の最初の二十年における経済の建設と改革の主要な任務は、社会主義市場経済体制を充実させ、経済構造の戦略的調整を推し進め、工業化を基本的に実現し、情報化を大いに推し進め、現代化建設を加速し、国民経済の持続的、快速、健全な発展を保ち、人民の生活水準をたえず高めることである。前の十年に第十次五カ年計画と二〇一〇年の奮闘目標を全面的に達成し、経済総量、総合的国力、人民の生活水準をさらに高い段階に高め、あとの十年におけるより大きな発展のための基礎をしっかり築く。
(一)新型の工業化の道を歩み、科学・教育による国の振興という戦略と持続可能な発展の戦略の実施に大いに力を入れる。工業化の実現は、依然としてわが国の現代化の過程における困難に満ちた歴史的任務である。情報化はわが国が工業化と現代化の実現を加速するうえでの必然的な選択である。情報化によって工業化を促し、工業化で情報化を促すことを堅持して、科学技術の応用度が高く、経済効率がよく、資源消耗が低く、環境汚染が少なく、人的資源の強みが十分に発揮される新型の工業化の道を切り開くようにする。
産業構造の最適化、グレードアップを推し進め、ハイテク産業を先導とし、基盤産業と製造業を支えとし、サービス業が全面的に発展する産業の枠組みを形成する。情報産業を優先的に発展させ、経済と社会の分野で情報技術を幅広く応用する。経済成長に対し突破的な重要な牽引作用のあるハイテク産業を積極的に発展させる。ハイテクと使用に適する先進的技術で在来の産業を改造し、装置製造業の振興に大いに力を入れなければならない。インフラ建設を引き続き強化する。現代サービス業の発展を加速し、国民経済における第三次産業のウエートを高める。ハイテク産業と在来産業、資金・技術集約型産業と労働集約型産業、バーチャル経済と実体経済の関係を正しく処理し、発展させる。
新型の工業化の道を歩むには、第一生産力としての科学技術の重要な役割を発揮し、科学技術の進歩に頼ることと勤労者の資質を高めることを重視し、経済成長の質と効率を改善しなければならない。基礎研究とハイテク研究を強化し、かぎとなる技術革新とシステム集成を推し進め、技術の飛躍的な発展を実現する。科学技術の革新を奨励し、かぎとなる分野といくつかの科学技術発展の最前線で核心技術を掌握し、数多くの自主的知的財産権を擁するようにする。科学技術と教育の体制改革を深化させ、科学技術および教育と経済との結合を強化し、科学技術サービス体系を充実させ、科学技術成果の現実的生産力への転化を加速する。国の革新システム建設を推し進める。ベンチャー・キャピタルの役割を発揮して、科学技術の革新と創業を促進する資本の運用および人材集中のメカニズムを形成する。知的財産権保護の制度を充実させなければならない。持続可能な発展を非常に突出した地位に置き、計画出産、環境保護、資源保護の基本的国策を堅持しなければならない。低出産レベルを定着させる。各種の天然資源を合理的に開発し、節約をむねとして使用する。一部地域の水資源不足問題の解決を急ぎ、南部の水を北部に引くプロジェクトを実施する。海洋の開発を実施し、国土資源の総合的整備をりっぱにおこなう。全人民による環境保全の意識を確立し、生態系の保護、整備をりっぱにおこなう。
(二)農村経済を全面的に繁栄させ、小都市化の進展を加速する。都市農村における経済・社会の発展を統一的に企画し、現代農業を建設し、農村経済を発展させ、農民の収入を増やすことは、いくらかゆとりのある社会を全面的に築き上げる上での重要な課題である。農業の基礎としての地位を強化し、農業と農村経済の構造調整を推し進め、食糧総合生産能力を保護し、高め、農産物の品質安全体系を健全にし、農業の市場における競争力を高める。農業の産業化経営を積極的に推し進め、農民の市場参入の組織化の程度と農業の総合的効率を高める。農産物加工業を発展させ、県域経済を大きく成長させる。農村市場を開拓し、農産物の流通を活性化させ、農産物の市場体系を健全にする。
農村の余剰労働力を非農産業と都市部に移すことは、工業化と現代化の必然的な趨勢である。小都市化のレベルをちくじ高め、大・中・小都市と町のバランスのとれた発展を堅持し、中国の特色のある小都市化の道を歩まなければならない。小さな町を発展させるには、現在の県都と条件の備わった編制町をふまえて、科学的に企画し、合理的に配置し、郷鎮企業と農村のサービス業の発展と結びつける。小都市化の発展にとって不利な体制と政策の障害をなくし、農村の労働力が合理的に、秩序だって移動するように導く。
党の農村における基本的政策を堅持し、家庭ごとの請負経営を基礎とし、統一と分割を結びつけた二重の経営体制を長期にわたって定着させ、たえず充実させていく。条件のある地方では法に依って、自由意思と有償の原則にのっとって土地請負経営権の移転をおこない、スケール経営をちくじ発展させてもよい。市場における農家の主体的地位を尊重し、農村の経営体制革新を推し進める。集団経済の実力を増強する。農業の社会化サービス体系を確立し、健全にする。農業に対する投入と助成を強化し、農業の科学技術の進歩と農村の基盤施設の整備を加速する。農村の金融サービスを改善する。農村の租税・費用改革を引き続き推し進めて、農民の負担を軽減し、農民の利益を保護する。
(三)西部大開発を積極的に推し進め、地域経済のバランスのとれた発展を促す。西部大開発戦略の実施は、全国の発展という大局にかかわり、民族の団結と辺疆地域の安定にかかわることである。基礎をしっかりと固め、着実に推し進め、基盤施設と生態環境の整備に重点的に取り組み、十年以内に突破的な進展をとげるように努めなければならない。特色をもつ強味のある産業を積極的に発展させ、重点地域の開発を推し進める。科学技術教育を発展させ、各種の人材を育成し、それを上手に使う。国は投資プロジェクト、税収政策、財政移転交付などの面で西部地区に対する支持にさらに力を入れ、長期にわたって安定する西部開発資金のルートを逐次切り開く。投資環境の改善に力を入れ、外資と国内資本を西部開発に参与するように導く。西部地区はいちだんと思想を解放し、自己発展能力を増強し、改革・開放の中で発展を加速する新たな道を切り開かなければならない。
中部地区は構造調整にさらに力を入れ、農業の産業化を推し進め、在来の産業を改造し、新たな経済成長スポットを育成し、工業化と小都市化の進展を加速しなければならない。東部地域は産業構造のグレードアップを加速し、現代化農業を発展させ、ハイテク産業と高付加価値加工製造業を発展させ、輸出志向型経済をいちだんと発展させなければならない。経済特別区と上海浦東新区が制度革新と開放拡大などの面で先頭に立って歩むことを奨励する。東北地区などの古くからの工業基地が調整と改造を加速することを支持し、資源の採掘を主とする都市と地域がそのあとに続く産業を発展させることを支持し、かつて革命根拠地であった地域および少数民族地域が発展を加速することを支持し、国は食糧の主産地への助成にさらに力を入れなければならない。東部、中部、西部の経済交流と協力を強化し、強みの相互補完と共同発展を実現し、それぞれ特色をもつ経済区と経済ベルト地帯を若干形成する。
(四)基本的経済制度を堅持し、それを充実させ、国有資産管理体制の改革を深化させる。生産力を解放し、発展させるという要請にもとづいて、公有制を主体とし、多種の所有制の経済がともに発展する基本的経済制度を堅持し、それを充実させる。第一、いささかも揺るぐことなく公有制経済を打ち固め、発展させなければならない。国有経済を発展させ、それを大きく成長させ、国有経済が国民経済の命脈を抑えることは、社会主義制度の優位性を発揮し、わが国の経済力、国防力と民族の凝集力を増強する上で、肝じんかなめの役割を果たす。集団経済は公有制経済の重要な構成部分であり、ともに豊かになることを実現するうえで重要な役割を果たしている。第二、いささかも揺るぐことなく非公有制経済の発展を奨励、支持し、導かなければならない。個人経営と私営など各種形態の非公有制経済は社会主義市場経済の重要な構成部分であり、社会各方面の積極性を十分に引き出し、生産力の発展を速めるうえで重要な役割を果たしている。第三、社会主義現代化建設の過程において、公有制を主体とすることを堅持することと非公有制経済の発展を促進することを統一させ、この二者を対立させてはならない。各種所有制の経済が市場競争の中でそれぞれの強みを生かし、互いに促進しあい、ともに発展することはまったく可能である。
引き続き国有経済の配置と構造を調整し、国有資産の管理体制を改革することは、経済体制改革を深化させるための重要な任務である。国家所有の堅持を前提として、中央と地方の二つの積極性を十分に発揮させる。国は法律と法規を制定して、中央政府と地方政府がそれぞれ国を代表して出資者としての職責を果たし、所有者としての権益を享有し、権利、義務、責任を統一し、資産管理と人員・業務管理を結び付けた国有資産管理体制を確立しなければならない。国民経済の命脈と国の安全にかかわる大型国有企業、基盤施設、重要な天然資源などは、中央政府が国を代表して出資者の職責を果たす。その他の国有資産は地方政府が国を代表して出資者の職責を果たす。中央政府及び省、市(地区)の二クラスの地方政府に国有資産管理機構を設立する。引き続き効果的な国有資産の経営体制と方式を模索する。各級政府は国有資産の管理に関する法律と法規を厳格に執行し、行政と企業の分離を堅持し、所有権と経営権の分離を実行し、企業が自主的に経営し、損益を自己負担するようにし、国有資産の価値の保全と増大を実現しなければならない。
国有企業はわが国の国民経済の支柱である。国有企業の改革を深化させ、公有制、とりわけ国有制の多種類の効果的な実現形態をいちだんと模索し、企業の体制、技術、管理面での革新を大いに推し進めなければならない。国が独資で経営しなければならないごく少数の企業以外は、株式制を積極的に実行し、混合所有制経済を発展させる。投資主体の多元化を実行するが、重要な企業に対しては国が株を支配する。現代企業制度の要求に基づいて、国有大中型企業に対し引き続き規範化した公司制改革をおこない、法人管理構造を完全なものにする。独占業種の改革を推進し、競争メカニズムを積極的に導入する。市場と政策による誘導を通じて、国際的競争力を備えた大手公司と大型企業グループを発展させる。国有中小企業をいちだんと自由化、活性化させる。集団所有制企業の改革を深化させ、引き続き多種形態の集団経済の発展を支持、助成する。
経済成長の促進、就職機会の増加、市場の活発化などの面で個人経営、私営などの非公有制経済に重要な役割を十分に発揮させる。国内民間資本の市場参入分野を広げ、投融資、納税、土地使用、対外貿易などの面で措置をとって、公正な競争を実現する。法によって監督と管理を強化し、非公有制経済の健全な発展を促進する。私的財産を保護する法律制度をさらに充実させる。
(五)現代市場体系を健全にし、マクロ規制を強化し、完全なものにする。資源配置の面で、市場に基礎的な役割をいっそう大きく発揮させ、統一的で、開放した、競争のある、秩序だった現代市場体系を健全にする。資本市場の改革・開放と安定した発展を推し進める。財産所有権、土地、労働力、技術等の市場を発展させる。さまざまな市場主体が平等に生産要素を使用する環境をつくり出す。流通体制の改革を深化させ、現代の流通方式を発展させる。市場経済秩序を整頓し、規範化させ、現代市場経済の社会信用体系を健全にし、業種の独占と地域の封鎖を打破し、全国の市場における商品と生産要素の自由な流動を促進する。
経済調節、市場監督・管理、社会、管理、公共サービスといった政府の機能を充実させ、行政部門による審査・認可を減らし、規範化させる。経済成長の促進、就職機会の増加、物価の安定、国際収支のバランスの維持をマクロ規制の主な目標としなければならない。内需拡大はわが国経済の発展にとっての長期にわたる基本的な立脚点である。内需拡大の方針を堅持し、情勢の必要に基づいてそれ相応のマクロ経済政策を実施する。投資と消費の関係を調整し、国内総生産に占める消費のウェートを徐々に高める。国の計画と財政政策、通貨政策などが互いに呼応しあったマクロ規制システムを整備し、経済槓杆としての調節の役割を果たさせる。財政、税収、金融、投融資体制の改革を深化させる。予算の政策決定と管理制度を整備し、財政収支に対する監督を強め、租税の徴収・管理を強化する。金利市場化の改革を穏当に推進し、金融の資源配分を最適化させ、金融の監督・管理を強化し、金融リスクを防ぎ止め、解消し、金融をよりよく経済と社会の発展に奉仕させるようにする。
(六)分配制度の改革を深化させ、社会保障体系を健全にする。分配関係をすっきりさせることは、広範な大衆の切実な利益と積極性の発揮にかかわっている。国、企業、個人の分配関係を調整し、規範化させる。労働、資本、技術、管理などの諸生産要素が貢献に応じて収益分配に参加するという原則を確立し、労働に応じた分配を主体とし、多種類の分配方式が同時に存在するという分配制度を充実させる。あくまで効率を優先させ、合わせて公平にも意を配り、奉仕の精神を唱導する必要もあれば、分配政策を実行に移す必要もあり、悪平等に反対する必要もあれば、所得の過度の格差を防ぐ必要もある。最初の分配は効率を重んじ、市場に役割を発揮させ、一部の人が誠実な労働と合法的経営を通じて先に豊かになることを奨励する。再分配の時は公平を重視し、所得の分配に対する政府の調節機能を強化し、格差の大きすぎる所得を調節する。分配の秩序を規範化させ、少数の独占的業種の高すぎる収入を合理的に調節し、不法所得を取り締まる。ともに豊かになることを目標とし、中所得層の比率を引き上げ、低所得層の収入レベルを高める。
経済発展レベルにふさわしい社会保障体系を確立し、健全にすることは、社会の安定と国の長期安定を達成する重要な保証である。社会的な統一調達と個人口座を結びつけることを堅持して、都市部の職員・労働者の基本養老保険制度と基本医療保険制度を充実させる。失業保険制度と都市部住民の最低生活保障制度を健全にする。多ルートを通じて社会保障基金を調達し、積み立てる。各地は実状に基づいて、社会保障の基準とレベルを合理的に確定しなければならない。都市と農村の社会救済と社会福祉事業を発展させる。条件を備えた地方では、農村における養老・医療保険と最低生活保障制度の確立を模索する。
(七)「国外からの導入」と「海外への進出」を結びつけることを堅持し、全面的に対外開放レベルを高める。経済のグローバル化とWTO加盟後の新しい情勢に即応し、より大きな範囲、より広い分野、より高い段階において国際経済・技術協力と競争に参与し、国内外の二つの市場を十分に利用し、資源配置を最適化させ、発展のスペースを広げ、開放で改革と発展を促す。
商品とサービス貿易をいちだんと拡大する。市場多元化の戦略を実施し、わが国の比較優位性を発揮させ、在来の市場を固め、新興市場を開拓し、輸出の拡大に努める。あくまで質で勝負し、輸出商品とサービスの競争力を高める。輸入構造を最適化させ、先進技術とかぎとなる設備を重点的に導入する。対外経済貿易体制の改革を深化させ、対外貿易主体の多元化を推進し、関連税収制度と貿易融資メカニズムを充実させる。
外国投資家の直接投資をいちだんと誘致し、外資利用の質とレベルを高める。サービス分野の開放をちくじ推し進める。さまざまな方式を通じて中・長期の国外投資を利用し、外資利用を国内の経済構造調整、国有企業の再編・改造と結びつけ、多国籍企業が農業、製造業、ハイテク産業に投資するよう奨励する。海外の各種専門人材と知力の導入に大いに力を入れる。投資環境を改善し、外商の投資に対し内国民待遇を実行し、法規と政策の透明度を高める。「海外への進出」戦略の実施は対外開放の新たな段階の重要な措置である。比較的に優位にある各種所有制の企業が国外で投資することを奨励し、それを支持し、それによって商品と労働力の輸出を促し、実力を持つ多国籍企業と有名なブランドを多く形成する。地域の経済交流と協力に積極的に参与する。対外開放を拡大する過程で、国の経済安全擁護に十分に意を配らなければならない。
(八)あらゆる方策を講じて就職の機会を増やし、たえず人民の生活を改善する。就職は民生の根本である。就職の機会を増やすことは、当面と今後の長期間における、わが国の困難に満ちた重要な課題である。国は就職を促進するための長期的な戦略と政策を実行する。各クラスの党委員会と政府は、起業環境を改善することと就職のためのポストを増やすことを重要な職責としなければならない。就職ルートを広げ、労働集約型産業を積極的に発展させる。就職のための新しいポストを提供し、一時帰休者・失業者を受け入れ、再就職させる企業に対し、政策面から支持する。社会全体の就職意識を転換するように導き、弾力的で多様な就職形態を推し進め、自分で就職口を探がし、自主的に事業を興すことを奨励する。就職のための養成訓練とサービス体系を整備し、勤労者の就業技能を高める。法に依って労働力使用の管理を強め、勤労者の合法的権益を保障する。安全生産を高度に重視し、国の財産と人民の生命の安全を守る。
経済発展の根本的目的は全国人民の生活のレベルと質を高めることにある。経済の発展に伴って、たえず都市・農村住民の収入を増やし、消費の分野を広げ、消費構造を最適化させ、人々の多様化する物質的、文化的需要を満たさなければならない。公共サービス施設の整備を強化し、生活環境を改善し、地域社会のサービスを発展させ、大衆の生活の便宜をはかる。新しい情勢の要請に適応する衛生サービスシステムと医療保健システムをつくり上げ、農村の医療衛生状況の改善に力を入れ、都市・農村住民の医療保健レベルを高める。身体障害者のための事業を発展させる。引き続き貧困扶助のための開発を大いに推進し、貧困脱却扶助の成果をうち固め、まだ貧困の状態から脱却していない農村人口の衣食の問題を一日も早く解決し、いくらかゆとりのある生活が徐々にできるようにさせる。
経済建設と経済体制改革の諸般の任務を勝利のうちに達成することは、社会主義現代化の推進を速めるうえで決定的な意義を持っている。全党と全国各民族人民が心を一つにし、刻苦奮闘しさえすれば、われわれはかならず完全な社会主義市場経済体制を確立し、新しい世紀の新たな段階において引き続き国民経済の持続的、快速、健全な発展を保つことができるのである。
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