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元駐日特派員林国本さんの眼  
五輪ブームが盛り上がる北京

 

                 林国本

さいきんは、本屋めぐりの好きな私は北京の公共交通の発展ぶりに、日常生活では一市民であるものとして、「合格点」をつけたいという気持ちになっている。運転手、車掌のマナーもたいへんよくなっているし、行列をつくって順序に従って乗る習慣などほとんどないに等しかった乗客のマナーもかなり良くなった。その他いろいろあるが、これはひとえに北京五輪カウントダウンに入っていらいのムードの変化のおかげで、まさに「オリンピックさまさま」である。諸施設の建設工事も着々とスケジュールどおりに進んでいるし、セキュリティー確保の面でも、国際交流を通じて、ノウハウの共有につとめている。ボランティアのトレーニングも着々と進んでいる。悩みのタネといわれていた交通問題もどうやら会場直通の地下鉄の建設や、北京の町が工事現場となるような大規模な都市再開発で道路の方もまずまずのレベルに近づいている。

しかし、世界各国の都市にしても、最初からオリンピックとかその他のウルトラ級ビッグイベントを目標として建設をすすめてきたものはひとつもない、と言ってもよい。発展途上国ではなおさらのことである。しだって、ジャーナリストの眼で、あえて「アラさがし」をしようと思うなら、まだまだ、「これで大丈夫なのか」と思うものもある。

ひとつ挙げるならば、よくひどい交通渋滞に見舞われることである。私は特派員時代に日本のある書店の招待で東京から長距離バスで伊豆に行ったことがあるが、7時間もの渋滞にひっかかり、たいへんな体験をしたことがある。中国の高速でも、半時間、一時間の渋滞を見かける。モータリゼーションは中国の進歩であり、まさか車なんかやめて環境にやさしい自転車王国の時代にもどろう、とも言えない。生活のリズムの変化、国民所得の増加の必然的な趨勢であり、また、汚染の元凶ともいえる重厚長大型企業が移転してしまった今日、IT、自動車、サービス業は北京の税収の目玉となっている。そうなれば、いまはやりの「ソリューション」という発想でいくと、OR(オペレーション・リサーチ)等の手法でベスト・オプションを見つけるしかない。頭のいい人たちが多数いる北京市政府のこと、なんとか名案を見つけることであろう。

サーズ禍を乗り切った頃の現在の北京市長のテレビに映る自信満々とした顔を今でも覚えている。その顔をもう一度見たいものである。かつて実施されたような、奇数ナンバーは市内に入るべからずとか、「歩け、歩け」式のソリューションは無策のあらわれと言ってよい。かなり近代的な交通管制センターもできた今日、私の懸念が杞憂であることを願う。もう一つ挙げるならば、食品衛生のことである。8月という真夏に開催されるオリンピックで、外国の選手が多数集まり、食べものに対する慣れ、不慣れもあろう、これも要注意である。日本のような「先進国」でも著名な企業が二つも、食品衛生でつまずいたケースがある。これも杞憂かな。

さらに、外国の新聞や雑誌を見ると、ポスト・オリンピックにおける経済成長の腰折れの可能性を指摘する向きもある。これは私見では大丈夫と言いたい。生活レベルは「先進国」にはまだまだ及ばないが、発展途上国の「途上」という言葉は、まだ可能性がいっぱいあるというふうにも理解することができる。オリンピックの諸施設をつくるくらいの需要はごろごろ転っている。チェンジ・オブ・ペースで次の需要に切り換えればよいのだ。もちろん、経済分野のノーベル賞を受賞した著名な学者ですら、経済の予測を誤ってデリバティブリの会社をつぶしてしまったというケースがあることも知っている。経済学者でもない一介のジャーナリスト(のそのまたはしくれ)の分際で、なんの生意気なことを、とお叱かり受けるかもしれないが、要するに次々とウルトラ級の需要が目白押しになっている中国では、経済運営の舵取りさえ上手にやれば、「腰折れ」はまだまだだいぶ先のことと言いたいのである。

仕事の関係で国家クラスのプランナーのポストにある人たちとおつき合いさせてもらっているが、その中で感じたことは、中国にはまだ発展の可能性がある、ということである。

さいきん、渤海湾で大油田が発見された、というニュースを見、また、その近海地域である遼寧省の営口市一帯での大臨海工業ベルト地帯建設の構想を耳にして、「腰折れ」の杞憂が吹き飛んでしまったような気もしないではない。しかし、楽観論にも前提条件がある。すべてがスムーズに行っているように見える時には、有頂天にならないことである。中国にはそうした失敗例や「腰折れ」に近いケースがなかったわけではない。中国が「先進国」の仲間入りを果たした時には、「先進国」並みの悩みを抱えることになろうが、そこまで行くにはまだ任重くして道遠しである。急がば回れで、あせらず努力することである。経済学には需要の創出という手さえある。「腰折れ」はまだまだ先の先のことである。

「北京週報日本語版」2007年5月16日

 

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