陝西省の安塞県。地元の女性たちは切り紙が好きだ。県内には切り紙上手な女性が1万人以上もいる。年齢は80歳から10歳まで実にさまざまだ。
地元の民謡「迎親歌」にこんな歌詞がある。「女の子を産んだなら、器用で、ザクロやボタンの切り紙を思うままに作れなければ」。切り紙は女性の器用さを評価する基準なのだ。女性は幼いときから母親から花柄の切り紙や刺しゅうの作り方を習う。そうして一生、数十年かけて独自の芸術的な風格が形成され、それが代々引き継がれ、発展してきた。
安塞県は中華民族の祖とされる黄帝氏族文化の発祥の地。陝西省北部(陝北)の黄土高原に位置し、仰韶文化と竜山文化の彩色陶器の遺跡が散在している。秦(紀元前221~紀元前206年)の始皇帝と漢(紀元前206~220年)の武帝はここに長城を築き、秦が直道を開いて北からの匈奴の攻撃を防いだことで、秦漢文化は燦然と輝く最盛期を迎えた。明代(1368~1644年)以降、天災や人災から生態環境が破壊されたため、通行封鎖や文化面からも隔離されたことで、ほかの地域ではすでに姿を消した古い民族文化の伝統がここではほぼ原始的な形で残されてきた。
安塞県の切り紙は、窓や門、オンドル、すだれ、天井、机、枕、靴の飾り物にするなど用途はさまざまだ。テーマも花鳥や昆虫、果物、野菜、家畜、獣、人物、樹木など豊富多彩。芸術的な世界に溶け込める、そこに切り紙の楽しみがある。
創作にあたっては、「心のおもむくまま」や「楽しみ尽くす」ことが大切にされてきたことから、古色蒼然として質朴、生動感に溢れる、強烈で自由な風格が形成された。切り紙には陝北に住む働く女性たちの純朴な気持ちや、感情、生活への限りない愛が反映されている。
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