唐元愷
メディアがレールの敷設が始まったと報じた建設中の地下鉄「五輪支線」について、最近、後続報道で北京市民は、その地下鉄が「8号線の一区間」という名称に変わっているのに気づいた。
理由は実に簡単。「オリンピックマーク保護条例」(「マーク保護条例」)と「北京市のオリンピック知的財産権保護規定」(「知財保護規定」)の条項に基づけば、「五輪」や「オリンピック」といった専門用語はオリンピック知財保護の範ちゅうに属するからだ。全長4.398キロの「五輪支線」は、十数の競技施設とオリンピック村が集中し、開幕式が行われる「国家体育場」もその中心に位置するオリンピック公園一帯を通り抜けるが、交通サービス手段であるため、名称は最終的に「地下鉄8号線の一区間」に変更された。
聖火の北京への到着が間近となれば、北京五輪マークや知財保護が大きな問題に直面するのは間違いない。
保護システムの確立
あるレストランの責任者は、北京市海淀区工商監督管理局商標科から送られてきた処分通知書を見て呆気にとられた。このレストランでは、「08年北京五輪の円滑な成功を祝う」と書いたナプキンを使っていたのだ。張徳金副科長は「第29回北京オリンピック組織委員会(組織委)は、『五輪』という言葉を使用する権限を与えていないため、専用権の侵害行為に該当すると認定した」と説明する。
どのオリンピックでも、権利侵害の問題に国際オリンピック委員会(IOC)と開催国は頭を痛めてきた。組織委法律事務部の劉岩副部長は「知財保護が力不足のために『五輪』を傷つけたオリンピックが、ハイレベルのオリンピックになるなど想像し難い」と指摘する。
劉副部長によると、01年7月13日にオリンピック招致に成功した際、「特色のある、ハイレベル」のオリンピック開催を明確な目標に掲げた北京は開催都市契約の中で「オリンピックのマークやエンブレム、マスコットの法的保護作業の円滑な実施を確保する」と誓った。
これより前、同年1月17日、北京オリンピック招致委員会(招致委)はIOCに提出した「招致報告」の中で紙幅を割き、中国のオリンピックマークの保護問題に関する姿勢を示すとともに、「中国政府は『オリンピック憲章』とIOCのオリンピックマーク保護関連の規定を順守する」と表明した。
同年9月初め、招致に成功して2カ月も経たないうちに、組織委準備弁公室の法律事務グループは「知財保護規定」の立法作業に参加。間もなく、北京市政府は「知財保護規定」を公布し、市知財局に対し知財保護に関する調査研究、統一計画の作成、総合協調作業の責任を担う権限を与えた。同年11月1日には知財保護に関する地方政府の規定も施行された。
全国範囲で時機を逸することなく有効に保護するため、02年2月、当時の朱鎔基総理は第345国務院令に署名し、「マーク保護条例」を同年4月1日から施行すると表明した。
国際知財学会の会員で、北京大学法学院の韋之博副教授は「中国はさらに十数の国際的な知財保護条約に加盟し、一連の具体的作業は関連する法律や法規に基づいて迅速に進んでいる」と強調する。例えば、「商標法」に基づき、組織委はすでにエンブレムを国家工商総局商標局に登録申請。45類の製品・サービスの全てを対象にしており、同時に多くの国・地域でも商標登録を申請した。また「著作権法」に基づいて、エンブレムやテーマソング、宣伝ポスター、芸術公演なども保護が可能となる。「特許法」に基づき、国家知財局は「オリンピックマークに係る意匠権申請審査規定」を公布。法律と行政法規、地方政府の規定からなるオリンピック知財保護システムがすでに確立されている。
多くの地方の工商機関にも、知財保護のための行政法執行責任制が設けられた。「我々は法執行による調査で発見した違法行為について、その行為者を見つければ、すぐに権利人に通知し、工商機関が権利侵害とした根拠を組織委が確認し、権利侵害行為にあたると確定すれば、我々はすぐさま組織を挙げて摘発に乗り出す」。北京市工商行政監督管理局商標処の劉燕華副処長はこう説明する。
北京税関法規処の蔡濱処長は「定期的に組織委に足を運ぶのが、我々の仕事の重要な一部だ。オリンピックマークの届出・記録、情報の交換と共有、リスク拡大の抑制、権利侵害商品の認定から、マークの保護範囲、多様な保護措置、権利侵害貨物の処理などの問題に至るまで、組織委の法律事務部と逐一、意見交換することにしている」と強調する。
現在、すでに仕事を始めたオリンピックのボランティアも、権利侵害に関する情報などを収集しているところだ。企業十数社も知財保護に関する共同行動協議書に署名し、企業の社会的責任を真剣に果たす決意を表明。多くのメディアも全国のマスコミに保護をアピールしている。
知財をめぐる紛糾を避けるため、開幕・閉幕式の演出企画プランの募集に応募した人も全員、知財の譲渡と秘密保持などに関する法律文書に署名している。
マスコットの加護
05年11月11日、北京オリンピックのマスコットがついに神秘のベールを脱いだ。擬人化された「娃娃」(子ども)の人形5個一組のマスコットで、総称は「福娃」(福は幸せ、幸運などの意)。
組織委法律事務部総合処の李雁軍処長は、発表を前に、すでに大陸と香港、マカオで商標の図形、それぞれの中国語の名称、中国語の全体名称、英語の全体名称の登録申請をしたことを明らかにした。
02年4月1日に施行された「マーク保護条例」規定する類別にはマスコットも含まれている。李処長によると、組織委は制定に当たり、IOCや内外の法律・商標関連事務所とともに、マスコットを専門に保護することを含め、全てのオリンピック知財の保護について検討した。
時に福娃を表面だけ変えたり、似通ったりまたは連想しやすいマークまたは名称が利用されるかも知れないが、組織委市場開発部でブランド保護を主管する陳鋒副部長は「福娃の知財保護は我々が想像していたより良好で、IOCの想像より良い」と強調。李処長は、これは組織委と各国政府との緊密な協調によるものだと強調するとともに、「福娃が発表された後、我々は全国の数千にのぼる県の工商局、また一部の郷・鎮の工商所と連携態勢を整えた。各工商局やその他の多くの機関から常に組織委に情報が寄せられている」と説明する。
さらに李処長によると、オリンピック商品の生産・販売について、政府は許可・届出制を実施しており、届出と公告の形で、どの企業が生産するか、どの商店が販売するか、どう使用するかといった問題の適性化に厳格な姿勢で臨んでいる。
北京市オリンピック経済研究会の陳剣副会長は「注視すべきは、知財保護と同時に、公益行為と市場行為の区分に留意することだ。この区分に留意しなければ、オリンピック理念の伝達に影響を及ぼし、社会全体がオリンピックに参与するという積極性を引き出すのは難しくなる」と指摘。これについて李処長は、政府の業界主管機関は、業界のイメージを示す、とくにある業界ひいては国のイメージを対外的に示すのが目的であるなら、マスコットなどのオリンピックマークの使用を許可する◆一部の企業が街頭という公共の場に標語を掲げ、社会の構成員として社会的責任と参与意識を示すものならば、組織委は許可し、ただ標語の中で企業名を表示させてはならない。でなければ、国の法律や中国オリンピック委員会の規則に照らせば、商業広告行為となる――と指摘する。「こうした規定はかなり厳しそうに見えるが、オリンピックの尊厳を擁護し、権利人と合法的使用者の権益を擁護する角度から見れば、理解を得られるはずだ」
賛助企業の利益の擁護
この20年近く、オリンピックマークの特許などを利用した市場開発は、オリンピックの重要な収入源となってきた。オリンピック知財の保護はまさに、オリンピック市場の保護でもある。仮に企業が任意にオリンピックマークなどを乱用して営利を追求すれば、オリンピックに内在する巨大なビジネスチャンスが失われるのは必至であり、その結果は予断を許さない。
陳副部長は「オリンピック市場には“隠れた市場”も存在する。そこにはもっと多くの“地雷”があり、知財は非常に侵害されやすい。一段の防止策が必要だ」と指摘する。
陳副部長は“隠れた市場”について(1)非協力パートナー企業が様々な方策を講じて組織委と虚偽または権利未授受の連携を結ぶ(2)非協力パートナー企業がオリンピックの形象やマークの使用を保護する様々な法律に違反する(3)非協力パートナー企業が故意にあるいは意識的にオリンピック協力パートナーの合法的市場での活動を妨害する行為を行う――の3点を挙げる。「我々は現在、協賛企業とオリンピックの利益を擁護するため、“隠れた市場”の防止とその問題の解決に全力を挙げて取り組んでいるところだ」と陳副部長は強調する。
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