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元駐日特派員林国本さんの眼  
中国における日本語教育の大発展

林国本

さいきん、知人、友人に請われて日本語を勉強している人たちが大勢いる大学や外資系企業グループで、「基調講演」という仰々しい名義のついたスピーチをする機会が増えた。その中で感じたのは、中国で日本語を勉強している若者が、倍々ゲームで増えていることだ。そして、いろんな分野、職場で、さまざまな目標をかかげて頑張っている若者たちの目の輝きを目の当たりにして、私は、この分野で数十年努力しつづけてきてよかったと感じるようになった。

このところ、いわゆる「海帰」(海がめという名もついている)という日本に留学した人たちもかなり帰国しており、日本語畑も厚味がついてきたようである。特に国内の大学の本科、修士課程で勉強した若者たちは、六〇年代、七〇年代に学窓を巣立った若者たちとかなり違って、日本語のほか、英語のレベルもなかなかなもので、なかには「二刀流」に近い人もいる。そういうことで、日本語の中の外来語にも精通していて、私が今お手伝いしている職場では、英文原稿をすらすらと日本語に翻訳している人もいる。日本の政治、経済、文学、芸術、スポーツに通じた若者もたくさんいる。これは人材の質的向上と言っても過言ではない。なかには、日本のアニメにたいへん詳しい若者もいて、一人、一人の日本のアニメ作家を評論家のような顔つきで論じる人もいる。こういう若者たちと触れ合うことで、私も大いに触発され、さらに前進するために日本の新刊書の蔵書がたくさんある北京国立図書館の閲覧ルームで、文字どおり老骨にムチ打って、新しい「コンテンツ」の開発に励んでいる。

しかし、いいことばかりではないこともたしかだ。つまり、これだけ、日本語を勉強した若者が増えると、就職の難度も倍増しているようだ。かっては「日本語ができます」というだけで、なんとか職にありつけた時代もあったが、昨今は求人一名に五十名もの応募者が!というような話もよく耳にする。そうなると、「二刀流」に近い人たちや、なにか得意とする技を身につけている人には有利となろう。

また、対外開放の環境で、フリーランスとして身を立てていきたい、という若者もかなりいる。ロマンや夢を抱くことはいいことだ。

しかし、発展途上国である、人口の多い中国という現実をよく見きわめておくことも必要ではないだろうか。私は幼小の頃からあまり丈夫ではなかったので、「石橋をたたいてはじめて渡る」発想で生きてきた。つまり、生き馬の目を抜くような激しい競争の中で、フリーで生きていくリスクは完全に避けてきた。「旅がらす」のようにこの都市、あの都市と飛び回わるのは、若い時なら苦にならないだろう。「旧人類」の発想かもしれないが、家庭をもってやっていくには、たいへんな覚悟を要する。外国の同時通訳者の多くは女性で夫に定職がある人たちだ。中国の現在の就職状況では、いったんフリーになれば、よっぽどの人脈がないかぎり、もう後戻りはできない。そして、自分でセーフティーネットを構築して、大海に乗り出すにひとしいのだと、私は自分のところにアドバイスを求めて相談に来る若者たちにいつも老婆心からこう言っている。日本語は日本という一つの対象国しかない言語だ。英語のように十数カ国を対象としている言語ではない。マーケットそのものが限定的であると、両国関係のブレにも影響されやすい。

しかし、古い世代の人間である私などのアドバイスはもしかしたら、時代遅れで間違っているかもしれない。やるっきゃないという意気込みで「清水の舞台から飛び降りる」ことを必要とする時代なのかもしれない。

ひとつの省に、二つも三つも、いや時には五つも、六つも日本語学科のある大学が現れている昨今の中国。日本語を武器としてチャレンジしようと意気込んでいる若者たちにエールを送りたい。

 「北京週報日本版」 2007年2月1日

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